1987年に結成された、4人組ロックバンド・スピッツ

ボーカル草野マサムネが生み出すポップなメロディーと独創的な歌詞への評価は高く、多くの音楽ファン、あるいはプロから絶大な人気を誇る、もはや「国民的バンド」といっても過言ではない彼ら。

バンドの歴史が長いと、ターニングポイント…いわゆる「転換期」みたいなものが存在しやすいと思うのですが…
スピッツは案外そういった時期や変化が少ないですよね。一貫しているというか…

スピッツの音楽はその「普遍性」みたいなところも支持される一つの所以なのだと思います。

とはいえ、そんな彼らも変化、進化を続けているからこそいつの時代でも愛される存在であり続けているのです。

今回は「スピッツの転換期」について、時代を彩る名曲とともに私の考える4シーンを紹介していきます。

「転換期」にはどんなタイプがある?

有名バンドの中にも大きな「転換期」を持つものがいくつか存在しています。

そこで、例を挙げながら、「バンドのターニングポイント」についてご紹介したのがコチラの記事です。
まだ、ご覧になっていない方は先にコチラを読んでいただくと今からするお話がわかりやすくなるかと思います。
もちろん、この記事だけ読んでも楽しんでいただけるよう頑張ります。

①『ヒバリのこころ』パンクからフォークへ

まず最初に紹介するのが、当たり前といえば当たり前…「メジャーデビュー」のタイミングです。

まぁ、デビューというよりかは、それより前…インディーズ時代での変化といった方が正しいかもしれません…

結成当初、あるいはインディーズのスピッツは「ブルーハーツ」みたいなパンクロックバンドだったんですよね。
今のスピッツからは想像もつかないですが…

なんて、言うとファンから怒られそうですが…今もパンク、というかパワーポップの色はちゃんと残っています。

最近リリースされたアルバム『花鳥風月+』なんかでもインディーズ時代の楽曲を聴くことができるわけですが…なんというか、若いですよね。

力強く、若さ溢れるエネルギッシュな音楽!…をやるには、どうもスピッツ、そして草野さんの歌というのは、繊細過ぎるというか爽やかすぎるというか…

当時メンバーもかなり悩んでいたみたいですよね、インタビュー記事とかを見ると。

そこで、インディーズ時代に誕生したのが、のちにアルバム『名前をつけてやる』にも収録された隠れた名曲「恋のうた」

フォーキーで、日本らしい「歌謡曲」チックな楽曲。リズムの取り方が大きな要因かなぁなんて思ったりもします。

素朴で、愛らしくて、どこか懐かしい…
今(というか黄金期)のスピッツの印象により近づいた一曲となりました。

この曲をきっかけにスピッツは「爽やかでポップなギターロックバンド」というポジションを見つけることになります。

このスタイルは今でも比較的続いていますね。やっぱり「草野さんといえばアコギ!」みたいな印象をお持ちの方も少なくないと思います。

そして、シングル「ヒバリのこころ」でメジャーデビュー。

この曲もまた重要な楽曲ですよね。草野さんの爽やかなアコギと、三輪さんのロックで伸びやかなギター、リズム隊の力強く洗練されたビート感…

原点にして頂点…といいますか、スピッツらしい楽曲だと思います。ポップで、ロックで、フォークで…もちろんパンクでもある。

「メジャーに行く」というのはバンドにとって大きな変化ですし、やっぱり今のスピッツへと続く重要な出来事だと思います。

余談ですが、恋のうたといえば草野さんがシェイカー(マラカス)を手に持って歌う姿が印象的ですよね。
ギター以外の楽器を手にしているのは、ちょっとレアな感じがします。

②「ロビンソン」歌謡からポップスへ

日本中にバンド「スピッツ」が知れわたるきっかけとなったのが、ドラマ『白線流し』の主題歌になった「空も飛べるはず(1994)」、あとはバンド自身最大のヒットを記録した代表曲「ロビンソン(1995)」でしょう。

とはいえ、バンド史上最初にオリコン入りを記録したのは、アルバム『Crispy!』に収録された7thシングル「君が思い出になる前に(1993)」なんですよね。この楽曲でMステに初出場することになります。

「空も飛べるはず」がリリースされたのは「君が思い出に~」の後なんですよね。
というか、この曲がヒットするきっかけとなったドラマの放送は1996年ですから、さらに後ということになります。

ということは、最初に大きなヒットを記録した作品はというと…やっぱり「ロビンソン」になるんですかね?

「ロビンソン」は1995年にリリースされた11thシングルで、スピッツ史上初のオリコンTOP10入り作品でもあります。

プロデューサーは、もはや当時お馴染みとなっていた(一度離れていましたが)名手・笹路正徳さん。

当時、若者の間で流行していた、いわゆる「渋谷系」の流れが感じられる、爽やかなギターポップとなっていますが、そこに従来(『Crispy!』『空の飛び方』あたり)の哀愁漂う歌謡曲のエッセンスもふんだんに盛り込んでいるのがスピッツ、そして笹路さんの色という感じがします。

それまでのシングルは「魔女旅に出る」や「裸のままで」といった、ブラスやキーボードといった、幅広い楽器編成でポップさを出すアプローチも結構多かったんですよね。「90年代の音」といった感じです、岡村靖幸さんみたいな。

一方の「ロビンソン」や前作「スパイダー」などは比較的シンプルな編成で、より「バンドらしさ」が際立っていると思います。小編成で厚みを出すことができているのはメンバーの技術力の高さがあるんじゃないかなぁ、と。

最先端、というか…輸入感のあるポップミュージックの要素と、誰もが親しみやすい歌謡曲の要素…この二つが合わさった「ロビンソン」はまさに、「J-POP=ジャパニーズポピュラーミュージック」の象徴的な存在ですよね。

ロビンソンのリリースから「涙がキラリ☆」「チェリー」「渚」…と、いわゆるスピッツの「黄金期」を迎えます。
中でも、ブレイクの最中に発表された6thアルバム『ハチミツ』は邦楽史上最高傑作ともうたわれる名盤となりました。スピッツファンにとっても特別感のある1枚ではないでしょうか。

トレンディなギターポップと従来の歌謡ロックの要素を取り入れた「これぞスピッツ」という楽曲群。
哀愁漂う、それでいて新鮮なサウンド…ある意味、ここで「スピッツらしさ」みたいなものが完成されたのだと思います。どちらかというと、受け手(リスナー)側にとっての。

「スピッツっていうのは、こういうバンドなんだ」という風に多くの人が認識するきっかけになったのではないでしょうか。

スピッツ自身の転換期であり、リスナーにとっての転換期でもあるのです。

③『三日月ロック』よりポップに、よりロックに

世間的に「転換期」というとやっぱり、ブレイクを果たした前述の「ハチミツ期」を思い浮かべる方が多いと思います。スピッツが国民的…というかメインストリームになった、という。

ところが、スピッツファンの間でよく言われるのが、「亀田スピッツ」のはじまりである25thシングル「さわって・変わって」、そしてこの曲が収録されたアルバム『三日月ロック』のリリースです。

それまでの「笹路スピッツ」の哀愁漂う歌謡ポップ・スタイル、石田ショーキチを迎えたオルタナティブ色の強い「ハヤブサ」から、更に雰囲気をガラッと変えた「スピッツの新たな顔」となりました。

「亀田スピッツ」の特徴は…よりロックに、よりポップに、といったところでしょうか?

シンプルなバンドサウンドでありながら、重厚で力強いアレンジが目立ちます。

亀田誠治さんといえば、「いきものがかり」「エレファントカシマシ」などを手掛ける名プロデューサーですよね。当時は「椎名林檎」のプロデュースを行っていました。
東京事変のベーシストとしても活躍されていますね!

そんな彼が手掛ける新しいスピッツ… 亀田誠治の音楽を知っている人間からすると、ひとことで言うと亀田さんっぽくなりました

なんでしょうかね…圧が強いというか…派手というか…
あとは、当たり前といえば当たり前なのですが、2000年代っぽいサウンドになりました。

この辺に関しては、文章でお伝えすることが難しいのですが…うーん「硬い」というか「パキッとしてる」というか…とにかく2000年代っぽいんです!(←下手)

『三日月ロック』から始まった「亀田スピッツ」は、相性が良いのか現在でも続いていますね。
もう、20年ですか…
ということは、スピッツの歴史の半分以上が「亀田スピッツ」なんですね。

ちなみに「亀田スピッツ」の中でもいくつかのターニングポイントがあるんですよ。

ひとつは結成20周年アルバム『さざなみCD』のタイミング。
コチラは個別の記事でも書いたんですけど、「亀田スピッツ」の形が定まった…というか着地点が見つかった作品だと思っていまして。

「魔法のコトバ」や「群青」…あるいは「桃」など、この時期を代表・象徴する作品が生まれました。
ハードで高圧的な中に、「ハチミツ期」を想起させる爽やかさを盛り込んでいますよね。

潮風が似合うというか、初夏が似合うスピッツが帰ってきた感じがしますね~。
『三日月ロック』と『スーベニア』はどちらかというと真夏の炎天下な雰囲気でしたから。

それに伴って、「涼しい」とか「瑞々しい」みたいな印象がスピッツに付与された気がします。
パキッとした亀田サウンドの影響もあってか「クリア」な面が強まりましたね。

ここが90年代のスピッツとの最大の違いかなぁという気がします。笹路さん時代は淡い感じが目立ってましたから。

そして、最後に紹介するのが「亀田スピッツ」のもう一つの「転換」です。

④『見っけ』進化を続ける日本的ロック

それはズバリ… 今!!!

具体的にどのあたりからか、というと… 結成30周年を迎えた2017年に発表された楽曲「ヘビーメロウ」「歌ウサギ」「1987→」ですかね?

この3曲はシングルコレクションに収録されていますが…なんというか面白いですよね、どれも。

最初に聴いたとき、どれも新しい感じがしたんです。こんなスピッツ見たことない!というか。

ヘビーメロウはなんとも亀田スピッツらしいキレとポップさ、歌ウサギは弾き語りをベースにしたミドルテンポな楽曲、1987→はインディーズ時代の「泥だらけ」をリアレンジ…

ぶっちゃけどれも、ありそう…というか非常に「スピッツっぽい」んですけど、案外無かった!

2016年の『醒めない』は、結構特殊なアプローチで「斬新」な感じの楽曲が多いんですよ(ナサケモノとかガラクタとか)。
その一方、2017年以降は…「ありそうでなかった」ところを絶妙に突いて来ているというか…

「ありそうでなかった」みたいな音楽って、わりと令和のJ-POP全体に共通するキーワードだと思っています。
あいみょんとか、YOASOBIとか…従来の「日本の音楽」を再編する、みたいな。比較的「アットホーム」な感じがするんですよ。新しいのにすんなり受け入れられる、というか…

この「ありそうでなかった」をスピッツなりに表現したのが2019年の『見っけ』なんじゃないかなぁ、と思います。

「原点回帰」というか。ものすごくスッキリしているんですよね。

「スピッツらしい」を追求しながらも、より進化したロックミュージックに…「なるほど!」と思いました。

具体的には、スピッツというバンドの色を最大限に引き出したシンプルなアレンジが光ります、全体的に。ライブを聴いている感じで、4人の音がハッキリ聴こえてくる!

このアルバムの最大の特徴は、そんな「サウンド」でしょう。斬新な音がします。

その要因のひとつは三輪さんのギターですかね?
ライブツアー「MIKKE」では、ほぼレスポールを使わないというちょっと信じられないスタイルを見せてくれました。スピッツ、そして三輪さんといえば、丸みのあるレスポールのアルペジオ…がひとつの「味」だと思っていたので。

『見っけ』では結構鋭い音が目立っていました。
シュッとしている、というか… そう!スタイリッシュ!!

ここ数年のスピッツは、なんだかスタイリッシュな感じがしますよね。
2010年の『とげまる』を彷彿とさせます。 ちょっとクールな感じ。

そして、全員がオーバー50という「ベテラン」の雰囲気とよくマッチしているんです。紳士的というか。
このスタイリッシュなスピッツは、まさに「スピッツ新時代」といった感じがします。
30年以上バンドを続けていて、まだ新しい姿を見せてくれるんだ!というワクワクが止まりません。

コロナ禍で発表された「猫ちぐら」「紫の夜を越えて」「大好物」も『見っけ』の流れを汲んでいる感じがしますよね~ 好きです。

おそらく2022年にリリースされるであろう新アルバムが楽しみですね。

個人的には「とげまる」みたいなアルバムになると思っています。とげまるがどんなアルバムかと訊かれると難しいんですけどね…
ひょっとすると、また全然違った毛色の作品になるのかもしれませんが、それはそれで大歓迎です。

まとめ

こう長々と、スピッツの転換期みたいな話を偉そうににしてきたわけですが…

スピッツって、改めて見てみると結構変化してきているんですよね。
なんか、どちらかというと「ブレない」感じのイメージだったんですけど。

とはいえ一貫性がないわけでは決してなく、「スピッツらしさ」はそのままにタイミングに合わせて異なる味付けをしている、というか…

ちょっとスパイシーにしてみようとか、シンプルに塩だけで!とか…
ある意味「食べ飽きないような工夫」でもあるのかもしれません。長く愛される秘訣ですね。

我ながらちょっといい例えかもしれません。

これからはどんな味のスピッツに出会えるのでしょうか?
今後も目が離せませんね。

コチラの記事もあわせてどうぞ