毎回お気に入りのCDを1枚ピックアップして紹介する「名盤の庭」。
今回は、国民的ロックバンド・スピッツから満を持して『ハチミツ』をご紹介。
ハチミツといえば、「J-POP個人的名盤30」にも選出させていただいた名作ですね。それでは早速いってみましょう。
『ハチミツ』とは?
1995年にリリースされた、ロックバンド・スピッツの6thアルバム。
同バンド最大のヒットを記録した「ロビンソン」をはじめ、「涙がキラリ☆」「愛のことば」などこの時期を代表する名曲が多数収録されています。
シングル、アルバムを通じてバンド史上初のオリコン1位を獲得。大衆性の中に個性が光る、バンド・スピッツ…そして90年代のJ-POPを象徴する名作です。
収録曲
01.ハチミツ
本アルバムのオープニングにして表題曲。
軽快なリズムと爽やかなギターのサウンドに、この時期のスピッツらしさを感じますね。フリッパーズ・ギターやブリッジなど、当時の「渋谷系」ムーヴメントを彷彿とさせます。
本作には全体的に流行を意識している印象があります。ポピュラーミュージックとしてのスピッツが確立された、ターニングポイント的な1枚だと思います。
余談ですが、当時のポップバンドは総じて「渋谷系」と称される傾向にあったように思われます。非常に曖昧な存在、それが渋谷系です。
さて、楽曲の内容を見ていきましょう。
イントロからAメロにかけて「変拍子」が続きます。細かく言うと10拍子というか、4+6拍子というか、そんな感じです。キャッチーなメロディーでありつつ独特なリズムがクセになりますね。
そしてBメロというか、サビでは4拍子に。なんとも個性的な構成です。
そして、この曲のイチバンの見どころ…もとい聴きどころはやはり「アルペジオ」でしょう。
三輪氏の煌びやかで温かみのあるアルペジオはまさに「スピッツサウンド」の象徴ですよね。
MVも相まって明るくポカポカした雰囲気が素敵ですよね~。
ポップでお茶目なこの曲がアルバムの開幕をハッピーなものにしています。
02.涙がキラリ☆
12thシングル。
この時代のスピッツを代表する楽曲のひとつですね。
7月7日にリリースされたこともあり「七夕ソング」として取り上げられることも。
それもあってか「星」をテーマにした歌詞が美しい。
タイトルにも「☆」がついていますしね。
「涙がキラリ☆」…タイトルが良いですよね!
「涙」という少々ネガティブはワードに「キラリ☆」。
まさに「かすかな光」をイメージさせる、ささやかなポジティブが爽やかです。
シンプルなビートに乗せた歌謡曲チックなメロディと、メロウなサウンドが心地よい。
スピッツのローテンポなポップスって魅力的ですよね。
バラードとは違って、素朴で温かみがあって…そっと寄り添うような音楽。
特にこの時期のサウンドはノスタルジックな雰囲気も相まってより一層「淡さ」や「温かみ」が感じられます。
歌謡曲とギターロックを融合した、90年代のJ-POP特有のサウンド…ちょっと時代を感じる一方で、いつまでも色褪せない魅力を醸し出しています。
03.歩き出せ、クローバー
爽やかなミドルテンポのナンバー。
このアルバムは全体的に爽やかな曲が目立ちますね。
まず、タイトルが好き。
「命令形+名詞」の組み合わせって良いですよね(多分私だけ)。
何って…「それいけ!アンパンマン」とか「あつまれどうぶつの森」とか「走れメロス」とかです…
あらゆるもののタイトルとかキャッチコピーなんかに使われがちなカタチですね。
「歩き出せ、クローバー」からは、明るく前向きな印象を感じられます。
さて、曲の中身についてです。
この曲は、非常に「スピッツらしい」楽曲だと思います。
煌びやかで温かみのあるギターサウンドと、美しいメロディライン。
力強いベースとドラム。
歌謡曲チックでキャッチーなメロディと、ノスタルジックなサウンド…「スピッツのロック」といった感じがしますよね。
メロディに関して言うと、ちょっと変わった構成ですよね。
Aメロ、Bメロ、サビ…というより、流れるような印象を受けます。
基本的にBメロは「不安定」、サビは「安定」…といったパターンというか、お約束があるのですが…この曲は常に少しユラユラ、フワフワしているんですよね~。
かと思いきやCメロで最大の盛り上がりを見せたり…ね。ちょっと不思議なんですよ。
とはいえ、全体を通じてはキレイにまとまっていて、美しい。
この辺には草野さんのポップセンスの高さを感じずにはいられませんね。
04.ルナルナ
軽快なリズムでノリの良い一曲。
ネオアコ、そして渋谷系の流れを汲んだ、ちょっぴりオシャレなコード進行が印象的です。
動き回るベースラインや、パーカッション(ボンゴ?)から陽気な雰囲気が漂ってきますよね。
「陽気」というのは渋谷系におけるキーワードの一つだと思っています。
まぁ、スピッツ…ハチミツが「渋谷系」なのかは難しいところですが。
あと、この楽曲は詩的な歌詞も魅力的ですよね~。
著作権とか色々と問題があるので、ここで具体的なことを語るのは控えておきます。ご了承ください。
サウンド面では間奏のギターソロが印象的ですね。サーフミュージックというか、トロピカルな音色が爽やかさを演出しています。
ルナルナといえば、コンピレーションアルバム『JUST LIKE HONEY ~『ハチミツ』20th Anniversary Tribute~』の中で、ゴールデンボンバーの鬼龍院翔さんがカヴァーしていますね。
彼は芸能界随一のスピッツファンと知られていますが、オリジナリティの中にリスペクトを感じられる素晴らしいカヴァーに仕上がっています。カヴァー曲って個性が出て面白いですよね。私は結構好きな文化です。
個人的に本作で一番好きな曲です、ルナルナ。
スピッツに興味が出てハチミツを買って、このルナルナを初めて聴いたときに「なんて良いバンドなんだろう」と思ったものです。
05.愛のことば
5曲目は打って変わって、クールな印象のコチラ。
アルバム曲でありながらミュージックビデオも作られた一曲で、2014年には「2014mix」として配信限定でシングル化されました。
ダークな世界観がクセになる、人気曲ですね。
ノスタルジックで冷たいサウンドに乗せた、歌謡曲チックで繊細なメロディが美しい。
アルバム全体に言えることですが、この時代のスピッツは、ロックバンドであるのはもちろん…
歌謡曲やフォークミュージックなど、大衆的かつ日本的な「J-POP=ジャパニーズ・ポピュラーミュージック」のエッセンスが強いですね。
デビューから現在まで続くスピッツ史の中でも「メインストリーム」としての音楽づくりが目立ちます。
その最たるひとつが、この「愛のことば」です。
シンプルで耳馴染みの良いメロディー…AメロからBメロ、サビへの移り変わりが、非常に滑らかで「自然」な感じがします。
もちろんロビンソンはじめ、スピッツの…草野さんの作るメロディーはどれも美しいですが、中でもこの曲には、わかりやすい美しさがあります。王道…というか、ポップというか。
それにしても、スピッツのダークな楽曲は本当に素晴らしいですね。引き込まれるというか、「落ちる」というか。ミュージックビデオで草野さんが見せる、真っ直ぐで吸い込まれるような目力にもスリリングな魅力がありますよ。
ロビンソンと並んで、このアルバムのキーとなる楽曲だと思っています。シンプルながら、味わい深い、何度も聴きたくなるような名曲です。
06.トンガリ’95
クールなナンバーから一転、軽快なパンクロックチューン。
ライブでも定番の盛り上がる楽曲ですね。
「トンガリ」というのは、「スピッツ=ドイツ語で”尖っている”の意」ということでしょう。
そういった意味ではバンドのテーマソングのようなものですね。草野さん自身もそう仰られているようです。
バンド名にもなっているように、スピッツの楽曲には「尖っている」ことを連想させるワードがチラホラ登場します。とげまるとか、トゲトゲの木とか…
さてさて、曲の中身について見ていきましょう。
まず、イントロのギターリフがいいですよね。シンプルで、高揚感があります。
スピッツ、そして三輪さんといえばやっぱりアルペジオのメロディアスなイントロのイメージが強いですが…こういった力強く、ド直球なリフも魅力的だったりします。
「ウィリー」とか「三日月ロックその3」とか…
こういったディストーションの効いたハードなリフを聴くたびに、「スピッツはやっぱりロックバンドなんだよなぁ」と実感しますね。
このイントロのフレーズはサビでも使われていますが、メロディーが乗っかるだけで印象も少し変わります。四つ打ちのスネアがダンサブルで、これまた盛り上がりますね~。
そう、トンガリ’95は「踊れる」ロックです。飛び跳ねるリーダーが頭に浮かび上がってきますね。
踊れるロックってやっぱり魅力的ですよね。ライブで聴きたい!といった感じがします。
スピッツに限らず…アジカンとか、チャットモンチーとかね。
07.あじさい通り
タイトル通り、ちょっと湿っぽい一曲。
90年代スピッツならではの「アンニュイ」な雰囲気がクセになります。
少しくぐもった、どんよりとした空気感は、次作『インディゴ地平線』を彷彿とさせますね。
個人的にはかなり好きな楽曲です。
『スピッツ』や『名前をつけてやる』なんかでもこういったじめっとした曲がいくつか存在していましたが、よりロックでスタイリッシュなサウンドに、バンドの変化や進化が感じられます。
先ほどの愛のことばなんかもそうですが、このアルバムあたりから「クールさ」みたいなものが積極的に押し出されるようになった気がします。
冷たい雰囲気と、草野さんの声がよくマッチするんですよね~。
クールな楽曲が増えてくるにあたり、楽曲の持つ「温度」に幅が出始めたのもこの辺りではないでしょうか?
中でもこのアルバムは、温かい・熱い・冷たいの3つが上手い具合に混ざり合った仕上がりが絶妙。
さて、楽曲の中身はというと…歯切れのよいギターによるイントロとAメロ…そこからサビで開放的に。
曲全体の「構成力」とか「表現力」を感じられる楽曲ですね。
このイントロ、良いですよね。
グルーヴ感というか…ちょっと溜めの効いた重めのリズムが、雨の日の陰鬱な雰囲気を醸し出しています。
シンセのメロディーもちょっと珍しい気がします。
間奏のギターソロもいいですね~。強めのディレイ、リバーブ、重めの歪み。
…やっぱり少し『インディゴ地平線』っぽいですよね?
スピッツの新しい一面が垣間見れるような、ちょっぴり特別感のある一曲でした。
08.ロビンソン
言わずと知れた大名曲。
スピッツ…それどころか90年代のロック、J-POPを代表する一曲ですね。
この楽曲のスゴイところは、歌詞に一切登場しない「ロビンソン」というワードをタイトルにしたところ。
タイの「ロビンソンデパート」が名前の由来なんですよね。
それなのに、なんか”ロビンソン”ってしっくりきますよね~(語彙力)。
そんな感じで、スピッツの楽曲は仮称がそのままリリース時のタイトルに使われたりすることがあるんですよね。なんというか、そんなんでいいのか…
というか、ロビンソンはもともとシングルにするつもりはなかったとか。
B面の「俺のすべて」がA面の予定だったんですよね、たしか。
どちらも名曲ですが、雰囲気がまるで違うので…そうなっていたらスピッツへのイメージも大分違っていたことでしょうね。
この楽曲は、メロディーが非常に美しいですよね。
誰もが口ずさめる…歌いたくなるような、わかりやすくて、愛おしいメロディー。
一概にそうとは言い切れないのですが、「美しいメロディー=歌いやすい」というのもひとつの指標として確実に存在していると思います。
特にスピッツ、草野さんに良く言えることです。スピッツのメロディーはとにかくわかりやすい。
メロディーに対する言葉の乗せ方もキレイですよね。一音一音、一語一語を大切に紡いでいる感じがします。美しさにもいろいろありますが、スピッツの場合は、「丁寧さ」でしょう。
メロディーだけでなく、ギターやベース、ドラムにも言えることです。とにかく丁寧。
イントロのアルペジオの繊細さ、ベースラインの鮮やかさ、ドラムのキレ…どれを取ってもスピッツらしい丁寧さが感じられます。
淡さの中にハッキリとした力強さみたいなものが感じられて良いですよね。堂々としているというか…
スピッツというバンドの良さを最大限に引き出した、誰もが認める名作です。
09.Y
ゆったりと落ち着いた雰囲気のナンバー、「Y」。
意味ありげで少々ミステリアスな雰囲気を醸し出しているタイトルですよね。
歌詞の方も、詩的で、壮大で…やっぱりどこか不思議。
ポップできらびやかな楽曲が多い本作において、少し独特な立ち位置にある存在です。
ちょっと『オーロラになれなかった人のために』を彷彿とさせますよね。
フワフワとした、朧げな空気感というか、時間の流れが遅いというか…
正直なところ、初めて聴いたときはあんまり良さがわかりませんでした。
スピッツにはポップな曲や、盛り上がるロックンロールを期待していたので。
ただ、何度も聴いているうちに、じわじわと良さに気づいていくんですよね…
儚げなサウンドに乗せた前向きな歌詞であったり、”広さ”を感じさせるボーカルやドラムの反響であったり… 何とも味わい深い楽曲です。
そして、それに気づくきっかけになったのが、GOOD ON THE REELのカヴァーだったりします。
彼らが奏でると「前向き」なメッセージがより強調される気がします。千野さんの歌声って魅力的じゃないですか?強さと弱さ、両方を感じられるというか…大好きなんですよ。
鮮やかな楽曲が多いアルバムの中で、実は一番「強さ」が感じられる名バラードです。
10.グラスホッパー
打って変わって、ノリノリでゴキゲンなロックチューン・グラスホッパー。
イントロのギターが痺れますよね。
あと、ビブラスラップって言うんでしたっけ? ハンバーーーグ!!のやつ。
こういった勢いのある真っ直ぐなパンクロックも魅力的ですよね。
そう、スピッツはパンクバンドなんですよ。
繊細なプレイングも素敵ですが、シンプルなエイトビートやギターリフもかっこいい!!
そして、露骨な歌詞も案外スピッツ(草野さん)らしい。
ロビンソンなんかで感じられる「世間のイメージ」とは対極の、「スピッツらしさ(裏)」に溢れた楽曲です。結構好きな曲ですね。
そして、当たり前のように、メロディーが美しい。伸びやかな歌声も美しい。
個人的にはBメロの「王道Bメロ感」が好きですね。これから盛り上がるぞ~といったワクワク感があります。
素晴らしいパンクバンドはたくさん存在しますが…こんなにも爽やかで、可愛らしく、美しいパンクができるバンドは後にも先にも彼らだけではないかと思ってしまうほどです。
それだけ「スピッツのパンク」には独特の魅力があるのです。
スピッツらしいロック魂が感じられる、隠れた名曲。真夏のギラギラとした太陽の下で聴きたいですね、最高です。
11.君と暮らせたら
本作を締めくくるのは、煌びやかなサウンドがなんとも『ハチミツ』らしい、フォーキーなミドルナンバー・君と暮らせたら。
パンクバンド・スピッツに続いて、フォークバンド・スピッツの魅力が感じられるどこか懐かしい香りのする一曲です。
リズミカルなアコギと、クリーンで伸びやかなエレキギターの調和が心地よいですね。
さて、この曲のポイントはやはりメロディーでしょうか。
この曲、1コーラスが非常に短い。
「Aメロ→サビ」というか「Aメロ→Bメロ」というか…サラッとしていて、だけど聴きごたえのあるメロディーがなんとも印象的。
間奏のギターソロも、美しいメロディーですよね。温かみのあるサウンドが癒されます。
そして、アルバムの最後を飾る、最後のフレーズ。
いわゆる「Cメロ」的なポジションのメロディーですが、ある意味この楽曲のサビでもあります。
一気に壮大な雰囲気に包まれる独特のオーラを醸し出していますよね。
重ためのビートに乗せた、サイケデリックで躍動感のあるギターも痺れます。やっぱりロックバンドなんだなぁ、スピッツは。
強烈なメロディーから、そのまま終焉に向かう作りに、満足感が膨れ上がります。
エンディングとしての、この楽曲のパワーは凄まじいですね。もちろん単体で聴いても良い曲なのですが。
スピッツのアルバムは最後の楽曲から、そのアルバムの色を感じられますよね。どれも名曲ぞろいです。
ハチミツらしいサウンドとポップなメロディーから繰り出される、圧倒的なフィニッシュ感が清々しい。
スピッツの表現力や、作り出すアルバムの世界観が存分に味わえる楽曲です。
総評
以上、全11曲の感想でした。
この記事の中で何度も述べられているよう、このアルバムは「煌びやかなサウンド」がひとつの売りです。
非常に、スピッツらしいというか、90年代らしいというか。
基本は変えずに、時代時代に合わせた名曲を生み出す…草野さんのポップスセンスは素晴らしい。
バンドの代表曲「ロビンソン」が収録されているのはもちろん、多種多様な名曲や「スピッツらしさ」が詰め込まれた珠玉のアルバムだと思います。
「ルナルナ」や「ハチミツ」といった、ネオアコ調のフォーキーなポップスから、「トンガリ’95」「グラスホッパー」などのロック…といった幅の広さがこのアルバムのボリューム感を演出していますね。
スピッツの数あるアルバムの中でも、バランスの良さが感じられます。
スピッツというバンドが世に広まったタイミングでリリースされたアルバムとして、相応しいラインナップだと思います。スピッツの魅力がわかりやすく、ポップにまとめられた、スピッツの入門にも持って来いの一枚です。
それでいて、聴くたびに好きになっていくような「深み」も持ち合わせているのが良い。ファンからの支持が厚いのも頷けます。
親しみやすさと、奥深さの2つを持ち合わせた、まさにJ-POP史における傑作ですね。
今回はこの辺で。
スピッツのアルバムはどれも魅力的ですよね。他のアルバムに関してもそのうち記事にできればと思います。
これから先、皆様が素敵な音楽に出会えますように。
コチラの記事もあわせてどうぞ
コメント