毎回お気に入りのCDを1枚ピックアップして紹介する「名盤の庭」。
第6回は、このブログで何度か名前を出したことがあるバンド・andymoriから同名のアルバム『andymori』をセレクト。
一般的な知名度は正直あまり高くないかもしれませんが、ロックファンの間で絶大な支持を誇る名作です。
『andymori』とは?
2009年にリリースされた、日本のロックバンド・andymoriの1stアルバム。
以前別の記事でも書いたのですが、「バンド名と同名のアルバムは名盤」というジンクスがありまして…
『THE BLUE HEARTS』とか、『フジファブリック』とかね。
このアルバムも例外ではありません。活動期間わずか7年と短いキャリアの中でリリースしたアルバムは5枚。どれも好きですが、やっぱりデビュー作である本作は特別感がありますね。
荒々しくフレッシュな、その名に相応しい「らしさ」全開の作品となっています。「若さ」みたいなものがandymoriの魅力ですよね。
さて、そんな若さ溢れる32分…じっくり見ていきましょう!
収録曲
1.FOLLOW ME
開幕を告げる一曲目。
疾走感あふれる高速のドラムフレーズがたまらないですね。
そこから加わるギターのストローク。三人のステージが映像として浮かび上がってきますね~。
自由奔放なプレイングが魅力的です。特にベース。
この曲だけでなくandymoriの楽曲全体に言えることなのですが、とにかくベースが縦横無尽に駆け巡りますよね。
スピッツとか東京事変もですが、個人的にベースが暴れるバンドが好きです。なんというか、楽曲の豊かさみたいなものやエネルギーが凄まじい。
ベースって基本的にはその名の通り「下地」というか楽曲の根っこの部分をつかさどるものなので、そこがうねうねと力強く張り巡らされていると生命力みたいなものが伝わってくるんですよね~。
あとは、もっと音楽的な話をすると、スリーピースだとベースがサブのメロディーのポジションに来る…といいますか、ベースに起伏を持たせることによって小編成でも厚みのある音楽になるんですよね。この辺はTRICERATOPSなんかも当てはまるかもしれません。
さて、話を戻しましょう。
この楽曲の良さは、サビですね。どこがサビなのかもわからないのですが、私が言っているのはラララというスキャットの部分です。
そう、サビっぽいのに歌詞が無いという。
究極のキャッチーですよね。歌詞が無い…つまり誰でも歌えるということ。
そして、歌詞が無いのにandymoriらしさが伝わってくる。素晴らしいメロディーだと思います。
元々メッセージがあるようなないような淡々として個性的な歌詞のバンドですからね…
「andymoriらしさ」は、わりとメロディーやサウンドから感じることが多い気がします。
2.everything is my guitar
1曲目とは打って変わってスローテンポな楽曲かと思いきや、これまた疾走感あふれるナンバー。andymoriの代表曲のひとつですね。
シンプルなコード進行がandymoriらしい。結構ロックやパンクだとありがちなコードなんですけど、メロディーの入れ方やどこか無気力な歌詞が彼らの色を見せてくれます。
そして、相変わらず動き回るベース。この曲ではギターもアグレッシブですね。
大胆なpan振りがユニークで良い。ひとつひとつの音が立っています。
特にギターのサウンドが非常に特徴的です。
ギラギラとしていて鋭い音色…オルタナティブロックという感じがします。
オルタナティブロックが何かわかっていないですが…
ギター、ベース、ドラム…どれをとっても非常にロックで攻撃的なサウンドなのですが、ボーカルや曲調はポップで可愛らしい感じがしていいんですよね~。
尖りすぎないカジュアルさが丁度いい。
他の曲にも言えることですが、すごいですよね…この早口。
結構常に高めの音域が続くので、かなり喉への負担がすごそう。これをサラッと歌い上げることができるのは天性の才能…というか声の持ち主・小山田荘平さんの強みですね。
3.モンゴロイドブルース
前2曲に比べるとローテンポでちょっと気だるげな曲。
ダラっとした脱力系のロックっていいですよね。
キレッキレのスタイリッシュな音楽も好きですが、ときにはこういう曲も聴きたくなります。
ダンサブルなリズムに乗せた投げやりなメロディーがクセになります。
そして、意味深な歌詞。
andymoriってちょっと思想が強そうな雰囲気の歌詞が結構多いんですよね。
でも、言及している感じでもネガティブな感じでもない…
なにかを否定しているわけでも肯定しているわけでもない不思議な世界観です。
ひとつひとつのワードは結構鋭いこともあるんですけど、広く見ると案外サラッとしているというか…
言葉は耳に入るけど、意味はフワッと抜けていく感じ…他のアーティストからは得られない独特の感覚ですね。
何はともあれ聴けば聴くほど好きになっていく、面白い曲です。
4.青い空
個人的にこのアルバムで一番好きな曲。
andymoriって、疾走感あふれるエネルギッシュな楽曲が有名なんですけど、こういったしっとりとした楽曲も魅力的なんですよね。
けっこう前のめりなリズム取りが多いandymoriにしてみたら珍しい、ちょっと重めなビート。
そこに乗せた爽やかでありながらも、どこか切ないギターのメロディーが美しい。
「青い空」というタイトルが良い味を出してます。
この曲は「ギターの曲」って感じですよね。
まずはイントロの少しサイケデリックなサウンド。
そこに乗せた高音の透き通るようなベースメロもいいですね~
そして、Aメロ。ゆったりとしたドラムと、絶妙なミュート加減のギターが心地よい。
…うーん、やっぱり全パートいいですね笑
3つの楽器だけで、心地よさとか、哀愁とかノスタルジックな雰囲気を醸し出している表現力とサウンドメイクに脱帽です。
もちろん表現力に関してはボーカルの存在も大きいわけで。
コーラスはシンガーソングライターの「Predawn」清水美和子さん…andymoriボーカル・小山田荘平さんの奥さんですね。彼女の優しい歌声が、小山田さんのボーカルと上手くマッチしています。
ギターのしっとりとした音色も相まって、非常に艶やかな楽曲ですね。
「青い空」でありながら、ちょっと寂しさとか憂鬱さみたいなものも感じられる…
こういうandymoriも魅力的です。
5.ハッピーエンド
このアルバムで好きな曲パート2です。
軽快でありつつも、ゆったりとしている不思議な楽曲。
前曲に続いて、どこかノスタルジックなサウンドが印象的ですね。
はじめてこの曲を聴いたとき、「懐かしい」感じがしたんですよ。
そんなに古めかしい楽曲か、というわれるとそういうわけではないんですけど、どこか子供の頃を連想させるというか「淡さ」みたいなものがあるんですよね。
邦ロックを聴いているとそういう思いに駆られる曲にときどき出逢うんですよ。
スピッツの「ロビンソン」であったり、ホフディランの「恋はいつも幻のように」であったり…
この辺は人によって感じ方が違うと思うんですが、誰にでも存在すると思います。なんか、潜在意識に響く曲って。
「ハッピーエンド」という幸福感あるタイトルでありながら、どこか後ろ向きというかネガティブな歌詞が、逆に心地よい。
全体的に独特のオーラを放つ楽曲です。
6.都会を走る猫
軽快なリズムに乗せた素朴なメロディと歌詞がクセになる1曲。
だんだんにぎやかになっていくアレンジが楽しいですね。
楽器の種類が増えていくわけではないんですけど、ちょっとリズムの取り方とか音符の数とかでそれを演出しているのに3ピースバンドらしさがにじみ出ていますね~
特にベースラインが良いですね。軽やかで弾むようなステップが心地よいです。
andymoriを聴いているとベースの楽しさみたいなものに気づけますよ。目立たないようで、楽曲の印象や密度を決める結構重要な楽器です。
話は変わりますが…
「猫」が出てくる歌っていいですよね。それだけで、可愛らしいというかお茶目というか…そんな印象を受けます。
スピッツの「猫になりたい」とかバンプの「K」とか。indigo la Endの「夏夜のマジック」とかもいいですね~。そもそも猫好きだからかもしれませんが…
猫って自由奔放で気まぐれな感じがするじゃないですか。飄々としてるというか。それらに想いを馳せたり、自分を投影させてみたり…
猫に限らず動物が出てくる歌詞、面白いですよね。
中でもこの曲は、猫のイメージにも近い、どこか飄々としていてフワフワとした抽象的な言葉選びが目立ちます…この曲というかandymori・小山田さんの世界観ですね。
そんなわけで、疾走感とかまた違う「軽快さ」を味わえる1曲でした。
7.僕が白人だったら
ロックでちょっとハードな印象の7曲目。
激しいドラムに乗せた、ちょっと緊張感のあるメロディーやコードが特徴的ですね。ちょっと珍しい感じがします。
そして相変わらずのベースの存在感。ベーシストとしてはベースが目立つ曲や聴いていると楽しい…というか嬉しくなります。
先ほども書いたように曲の密度に最も影響を与えるのがベースだと思っています。数だったりリズムだったり幅だったり…andymoriはその辺の密度調整が上手なバンドな気がします。
密度を変えて楽曲に浮き沈みを生み出している感じがするんですよね…みなさんも是非「密度」を意識しながらいろいろな曲を聴いてみて下さい。なにか面白い発見があるかもしれませんよ?
この曲の歌詞に関しては、綴るのが難しいですね…色んな意味で。
欧米への憧れ…というよりかは「白人コンプレックス」について歌った曲なのかなぁといった印象です。わかりませんが…
曲に似て結構ハードな歌詞ですが、意外とそれを感じさせないというか、やっぱりどこかサラッとしているのが小山田さんのソングライティングの特徴だと思います。
メロディーとか歌い方とかもあるんでしょうけど、本当にしつこくない…というか押しつけがましくない感じがします。
ひとつひとつのワードが強烈なだけに、不思議なんですよね。
メッセージ性の強い歌詞とか、ストーリー性のあるドラマチックな歌詞ももちろん好きなんですけどね。でも、つかみどころのない歌詞を書くアーティストもなんとなく魅力的に感じられます。
8.ベンガルトラとウィスキー
「everything is my guitar」と並んでandymoriの代表曲ともいえる存在。
まず、タイトルが良いですよね。
「ベンガルトラ」と「ウィスキー」という共通点が感じられない2つの語を並列させるセンスですね。そもそもベンガルトラについて歌った曲なんて聞いたことがないですね。
ベンガルトラとインドクジャクという2種類の生き物が登場するわけですが、まぁ小山田さんの思想…というか憧れのインドへの想いから来ているんでしょうね。
そこに併せたお酒がウィスキーというのも良い。自由な感じというか、ね。
さて、曲の方はというと…
やっぱりこの軽快なドラムですよ!
タムの音が特徴的です。なんというんでしょう…ちょっと落ちる感じというかどっしりしたサウンドですよね。
基本のビートがシンプルなので、フィルインがものすごく印象に残ります。
ロックバンドではあるんですけど、ちょっと吹奏楽とかそういった音楽のエッセンスを感じますよね。一筋縄ではいかないドラムが彼らの音楽をより個性的で魅力的なものにしている気がします。
ギターならではのコード運びも良い。爽快感がありますよね。
激しいドラムと、独特なギターサウンド…そして勢い溢れる情熱的でありながらみずみずしいボーカル。andymoriらしさが溢れる1曲です。
9.誰にも見つけられない星になれたら
まったりとしたミドルテンポなシャッフルビートが心地よい1曲。
激しくロックな楽曲の多いandymoriですが、こういった曲もいいですよね(n回目)。
サビのフワフワとした歌い方と、コーラスが魅力的ですね~。癒されます。
ダラっとした印象のウォーキングベースが、ゆるさを増長させています。
柔らかなサウンドのギターソロも、温かさが感じられて良いですね。
というか、ギターソロパートがあるのって結構珍しい気がします(3ピースだしね)。
タイトルにもある「誰にも見つけられない星になれたら」という少し卑屈なテーマが良い。
楽曲の雰囲気から、決してネガティブなものではないというのが伝わってきますよね。
孤独ではなく、自由。
二人だけの世界を歌った曲もいいですが、自分だけの世界を歌った曲も素敵です。
andymori、小山田さんの歌詞には素朴さとかささやかな幸せみたいなものを歌ったものが多い気がします。壮大なようで、どこか身近に感じられる。
これこそがこのバンドが愛される理由なのかもしれません。
10.サンセットクルージング
前曲に続いて、ゆったりとしたミドルテンポの10曲目。
イントロのギターのフレーズが印象的ですね。
この曲も「ゆるさ」というか気だるさみたいなものが前面に出された曲ですね。
少し気の抜けた歌い方がクセになります。
途中で少し激しくなるのも、楽しいですよね。エネルギッシュというか生き生きとしています。
1分40秒ほどと短い曲ですが、アレンジの多様さを感じられるボリューミーな楽曲です。
とはいえサラッとしたアウトロが、ちょっと儚げ。
andymoriの表現力が良く表れた1曲だと思います。
案外、アルバムの中で一番彼ららしい音楽がこれなのかなぁなんて思ったり…
シンプルに良い曲です。
11.Life Is Party
ミドルテンポのダラっとした雰囲気を引き継いだ、サイケデリックなイントロが印象的なこの曲。
タイトルにもなっている「Life Is Party」というフレーズ、「ベンガルトラとウィスキー」にも登場しますよね。小山田さんのポリシーのようなものなのでしょうか。
次作『ファンファーレと熱狂』でも顕著ですが、andymoriはこうした共通のモチーフをいくつかの曲にちりばめるようなアルバムの作り方をします。作品に統一感があって良いですよね。
さて、曲の方を見ていきましょう。
なんとなく、寂しい感じ…というか、「終盤」といった感じがしますよね。
ちょっと夕方5時の哀愁みたいなものを感じます。
徐々に盛り上がっていくアウトロにも「終わり」を感じさせますよね。
実際、この曲がアルバムのエンディング…というかラストパートのような存在なのだと思います。
わりとこういった作りのアルバムって少なくない気がするんですよね。
「最後から二番目のトラックでエンディングを演出する」って。
大滝詠一の『A LONG VACATION』なんかがそうですよね。
BUMP OF CHICKINのようにオープニングトラックとエンディングトラックが存在するパターンもありますが。
そういう発想でいくと、今作も「FOLLOW ME」がオープニング、次曲「すごい速さ」がエンディングという捉え方もできるかもしれません。両曲のイントロとアウトロを聴くと、そんな感じがしますよね。
12.すごい速さ
タイトル通り、約1分半をすごい速さで駆け抜ける、andymoriらしさ全開の爽快ソング。
キレのあるイントロのフレーズから、詰め詰めの歌詞、激しいドラム…どこをとってもandymori。
どこか投げやりな歌詞も良いですね。非常にフレッシュです。
この楽曲といえば、YouTubeにも上がっているミュージックビデオが良いですね。
コマ撮りのコミカルな3人がなんとも楽しげ。ちょっとチープな感じが良いんですよ、手作り感というか。
基本的にandymoriって「学生ノリ」を感じさせるような親近感と、勢い…若さみたいなものがありますよね。
みずみずしくて、けれども暑苦しくて…言ってしまえばパンクなんですよ、彼らの音楽は。
音楽の楽しさとか、エネルギーとか…色々なものが感じられます。
2024年にはTikTokでこの曲が大ブームに!
いつの時代でも愛される、
そんなパッションとポップが詰まったパンクロックです。
総評
今回はandymoriの1stアルバム『andymori』を見ていきました。
彼らのフレッシュ感と豊かな表現力が存分に表れたアルバムですね。
特に初期の代表曲「everything is my guitar」「ベンガルトラとウィスキー」あたりは圧倒的な存在感がありますね。
一方、「青い空」や「ハッピーエンド」といったミドルテンポのエモーショナルな楽曲も素晴らしい。
結局、このバンドのイチバンの魅力は、両者のバランスなんですよね。盛り上がる曲と聴かせる曲のバランスが絶妙。
これは、THE BLUE HEARTSなんかにも言えることです。
パンクやパワーポップバンドのミドルテンポ曲って独特な魅力があるんですよね。説得力があるというか。
特にこのアルバムはその魅力を顕著に感じられる作品だと思います。「緩急」というか、そういった良さがありますね。
実は、andymoriに関して言うと2ndアルバム『ファンファーレと熱狂』が最高傑作だ、という意見もよく見られます。
確かに良いアルバムなんですよね~ というかどのアルバムも魅力的です。
そのうち『ファンファーレと熱狂』に関しても記事にできたらと思っております。お楽しみに。
さて、今回はこの辺で。
皆様の音楽ライフがより充実したものになりますように!
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