【米津?きゃりー?】厳選!!2010年代J-POPランキングTOP50【邦楽】

音楽語り

音楽雑誌『MUSIC MAGAZINE』2024年9月号の特集

「2010年代Jポップベスト・ソングス100」。

平成から令和へと繋がる、2010年代にリリースされた楽曲の中から
ライター35名がそれぞれ25曲を選出。

各人のリストを合算して全体でのランキングを発表…という企画。

先月号の2000年代ランキングに引き続き、今回も自分なりの50曲を選出してみた。

雑誌内での評価も交えつつ、私が選んだ50曲を一気に紹介していこう。

(雑誌の結果に関するネタバレを含みます。実際に結果を確認の上ご覧ください!)

もくじ

50~26位

50. ずっと好きだった / 斉藤和義

2010年にリリースされた、なんと38枚目のシングル「ずっと好きだった」。

「遅咲き」と呼ばれることも多い彼の代表作のひとつ。

なんというか、この曲は80,90年代の歌謡曲の空気を色濃く匂わせている気がしてたまらない。
サビのメロディーとか、そもそも歌のテーマとか。

その一方で、イントロなんかは60, 70年代のクラシカルなロックンロールといった感じ…
MVもビートルズだし…

だが実際には2010年に発表された曲で、しかも大ヒットを記録した。

近年だと、あいみょんがいたりカネコアヤノがいたり…硬派なフォークロックシンガーというのは、若手でも数多くみられるが、
斉藤和義というスターが真っ向勝負でつかみ取ったこの輝きあってこそのものなのかもしれない。

49. アイデア / 星野源

90年代の「渋谷系」を筆頭に、平成のポップスというのは複雑化が進んで行った。

「ポピュラーミュージック」とは切り離され、サブカル的なアプローチのポップスも増える中、
「恋」で一世を風靡した星野源が2018年にリリースした「アイデア」。

彼は洗練されたサウンドを追求する一方で、同時に「大衆性」への強いこだわりを持ち合わせた真のポップ・ミュージシャンだ。

次々と変貌を遂げる”アイデア”に富んだサウンドアレンジや、ビート…

しかし、そこに乗せたメロディーが、絶対にリスナーを置いてけぼりにはしない。

彼の親しみやすい澄んだ歌声も、「安心感」を与えるファクターとなっている。

彼の「大衆への呼びかけ」は、冒頭の歌詞にも表れている。

48. 桜流し / 宇多田ヒカル

しっとりとしたピアノから始まる、さらりとしたイントロ。

そこに乗せられたビブラートを多用した伸びやかなボーカル。

活動休止中であった、希代の歌姫が特例で書き下ろした
『新世紀エヴァンゲリオン』の壮大な世界観に呼応した、ドラマチックなバラードだ。

デビュー当時洗練されたR&Bサウンドと、斬新なボーカリゼーションで注目を集めた宇多田だったが、3rdアルバム『DEEP RIVER』以降は”ポップ”な側面をより際立たせるようになっていた。

5th『HEART STATION』ではより普遍的な良さを求め、シンプルな楽曲が目立つように…

この「桜流し」もその方向性が顕著に表れている。
こんなにも音楽の、日本語詞の普遍的な美しさを体現した曲は、そう多くないだろう。

後半のギターやドラムが鳴り響くエネルギッシュな展開もグッと引き付けられるものがある。

…もうちょっと上の順位でも良かったかも

47. 夜に駆ける / YOASOBI

ボーカロイド文化が生んだミクスチャー感を、より大衆に向けて昇華したのがYOASOBIをはじめとした令和のリーダーたち。

その金字塔とも呼べる「夜に駆ける」は、老若男女のハートをわしづかみにした。

そう、この曲の凄いところは若者だけでなく、おじさんおばさんにも広く愛されているということ。

複雑で非常に難解なメロディーにもかかわらず、カラオケの定番となったこの曲。
実際に歌ってみるとよくわかるが、どうやってこれを歌っているのかが本当にわからない。

ボカロ音楽の魅力のひとつに「人間には表現できないことができる」というのがあるが、これを実際にやってのける人間がいるのだから、まさに彼ら2人の出会いは運命そのもの。

そんな巡りあわせを可能にしたのもSNSが普及した現代ならではと言えるのかもしれない。

本をもとにした楽曲という「二次創作」的なアプローチも現代ならでは。

46. ミュージック / サカナクション

「緊張」と「緩和」、「閉塞」と「解放」…このような対比の言葉は
エンタメを語る上でよく使われているが、

このコントラストを”これでもか”というほど極めた楽曲。

いわゆる「サビ」までのタメの、まぁ長いこと。

しかし、この緊張感が絶対に最後まで不快感にならないのが不思議なもので。

希代の天才・山口一郎と、バンドメンバーが作り出す繊細で緻密な音の数々が、長く続く緊張の中に
「ぱっ」と輝く無数の光を覗かせてくれる。

そこから繰り出される爆発的なラストのサビは、何度聴いても鳥肌もの。
力強いコーラスも、サカナクションそして、この曲の醍醐味だ。

なんとなく「ニコニコ動画」の弾幕を思い浮かべたり
来るぞ…    来る…!

45. ようこそジャパリパークへ / どうぶつビスケッツ×PPP

ニコニコ動画といえば忘れてはいけないのが「アニメ」の同時視聴文化。

リアルタイムでコメントが流れるこのサイトならではの「参加型」のアニメ視聴が流行していた。

その代表的存在が『けものフレンズ』だろう。

少し独特な空気感が生み出す、シュールでありながら続きが気になるストーリー構成は多くのリスナーに衝撃を与えた。

そして、アニメ本編と同じくらい話題になったのが主題歌「ようこそジャパリパークへ」。

アニソンのスペシャリスト・大石昌良が手掛けるキャッチーで勢いのあるメロディー。
「最初から最後までずっとサビ」と形容される無限パンチラインは、数多くの音楽家をうならせた。

続く2nd「フレ!フレ!ベストフレンズ」も必聴。かなり拗らせている。

44. 前前前世 / RADWIMPS

2010年代のアニメシーンで忘れてはいけないのが映画『君の名は。』の存在。

『言の葉の庭』で話題を呼んだ新海誠監督のさらなる出世作…というか、
アニメ界に、新たな文化を作り上げた作品だ。

そして以降も新海誠作品を彩るのが、ロックバンドRADWIMPSの音楽。
そんな彼らもこの作品を皮切りに国民的支持を得たと言えるだろう。

デビュー以降、ファンタジックでありながらリアリティを持ち合わせた歌詞と、繊細なサウンドメイク。
この二つが、美しい映像と壮大なSFファンタジーとよくマッチしている。

中でもメインテーマ「前前前世」は、時空を超えた爽やかなラブロマンスと見事な相乗効果を生んでいる。

疾走感のある特徴的なイントロは、まさに青春の音。映画館でこの曲を聴いたときの高揚感は今でも鮮明に思い出される。

43. きっかけ / 乃木坂46

2010年代のアイドルシーンで、真っ先に思い浮かべたのが「坂道グループ」の存在。

「AKB48の公式ライバル」として登場した乃木坂だったが、次第に独自の路線を歩み始め、後に続く「坂道」を切り開く存在となった。

少しヤンチャなAKBやNMBなんかとは違い、「清楚」な印象を受ける衣装や佇まい。ティーンエイジャーのファッションにも大きな影響を与えていたのは言うまでもない。

そんな乃木坂で個人的に一番好きなのが「きっかけ」。

「制服のマネキン」はじめ多数の名曲を生んだ杉山勝彦さんの、渾身の一曲。

繊細なコードワークと、美しい滑らかなメロディー。アコギが奏でる爽やかなソロと、しっとりとしたピアノ。すべてが乃木坂の世界観と見事にマッチしている。

メンバーからもファンからも人気の高い、乃木坂屈指の名曲。

雑誌では、ライターの金子厚武さんが選曲・絶賛していた。

42. ロマンス宣言 / カネコアヤノ

単調なドラムと単音のミュート音で始まる、あまりにも素朴な幕開け。

その直後にはなんとも脱力感のあるサイケデリックなギターソロ。

無邪気な仕草とあどけない口元から放たれる、飾らない歌声と、不思議な文学。

平成最後に登場し、令和の時代にゆらゆら漂うシンガーソングライター・カネコアヤノ。

彼女の音楽は常に自然体だ。

シンプルなコードワークに乗せた、普遍的なメロディーは、かつてのフォークミュージックを彷彿とさせるが、決してただの模倣ではなく、彼女はそこに新しいアイデアをいくつも繋げている。

親しみやすく「普遍的」な良さを生み出すポップスメーカーでありながら、独創性と野性に満ちたロックンローラーだ。

ライブ映像の迫力… すごいよね。

41. 絶対的な関係 / 赤い公園

「チャットモンチー」以降のガールズバンドブームのカリスマ的存在・赤い公園。

その代表曲で、ドラマの主題歌にもなったのが4th「絶対的な関係」だ。

たった100秒という短さの中に、赤い公園というバンドの魅力が惜しげもなく詰め込まれている。

パンク的な無骨な激しさと、鉄琴やカウベルを使用した自由なミクスチャー感は、2010年代ならではのロックンロール。ハードなサウンドでありながら、ポップな仕上がりが魅惑的だ。

ドラムの疾走感と緻密なリズムワーク、ベースの躍動感、
そして何と言ってもバラエティに富んだギターフレーズの数々。

100以上の「衝撃」を閉じ込めたこの曲は、まさに「キラーチューン」という言葉が良く似合う。

MVのシュールで可愛い世界観も、なんともクセになる。

40. 飛行艇 / King Gnu

90年代から普及した「オルタナティブロック」というジャンル。

2000年代以降はミクスチャー概念の浸透により、「オルタナティブ」の意味するところは大分曖昧なものになっていった(それは元から?)。それだけ音楽がジャンルレスなものになっていったとも言えるだろう。

そんな中登場したKing Gnuもまた、オルタナティブとしか形容することが出来ない独自の世界観を持ったロックバンドだ。

クラシックの素養を持ち合わせた重厚な風格でありながら、ヒップホップやダンスミュージックを盛り込んだフリーダムな要素を取り込んだ、ラフさも魅力的だ。

そんな中で「飛行艇」は、本来の意味でのオルタナティブロックを再構築したような一曲だ。
彼らのロックは常に斬新だが、歴史を紐解く様なアカデミックさを感じさせてくれる。

イントロから鳴り響く歪みの効いたギターリフには、時代を超越した「ロック」を感じる。

39. Climax Night / Yogee New Waves

2010年代の音楽シーンといえば、印象的なのが「シティポップ・リバイバル」の存在だ。

山下達郎や大滝詠一といった80’s当時の音楽の再ブレイクはもちろん、それらを受け継ぐ新バンドも数多く登場した。

個人的に印象深いのが「踊ってばかりの国」「シャムキャッツ」…そして「Yogee New Waves」。

キリンジ以降に顕著な”グッドミュージック”的な側面よりも、当時の空気を閉じ込めたようなカジュアルな世界観が非常に心地よく、むしろスペシャルに感じられた。

シティポップは、現代を生きる若者にとって一つの「ロマン」であり「憧れ」なのだと思う。

70,80年代という、自分たちも、インターネットも、スマートフォンも生まれる前の世界はまさに、夢の国であり、ファンタジー。

そんな夢見る若者たちの気持ちを代弁するかのような歌詞と音楽は、その後のブームに大きな足跡を残した。

38. ファッションモンスター / きゃりーぱみゅぱみゅ

きゃりーぱみゅぱみゅの登場、流行の中でリリースされた3rdシングル。

シリアスなストリングスと軽快なピコピコ音…
まさに「ファッション」と「モンスター」を体現したかのようなアレンジ。

ちょっぴりダークな一面をチラつかせるきゃりーの世界観は、原宿系(今で言うと地雷系?)の象徴とも言えるだろう。

めくるめく楽曲展開、しかしどのメロディーもキャッチーで耳に残る。
特にAメロ、Bメロの細かく刻まれた音が紡ぐフレーズは何度聴いても新鮮だ。

そこから続くドストレートなサビのメロディーも、当然のように素晴らしい。

普遍的なメッセージを乗せた曲だが、中田ヤスタカと彼女の手にかかれば
全く新しい世界を見せてくれるものだ。

37. 夜を使いはたして feat. PUNPEE / STUTS

令和の音楽シーンにおけるカリスマ・トラックメーカー・STUTS。

そして、日本のHIP-HOP界に登場したヒーロー・PUNPEE。

日本の「音」を牽引する2つの才能が生み出した名曲「夜を使いはたして」。

現在進行形のJ-POPの直接的な源流とも呼べるこの曲は2016年リリースにして既に「令和の音」を確立している。

STUTSの作り出すサウンドは非常にクリアだ。
なんというか、作り出す…というか耳に自然に入ってくる音そのものという感じ。

そしてSTUTSサウンドに負けないのが、PUNPEEのラップ。

最初に彼の声を聴いたとき「こんなにも耳馴染み良い”音”を出せる人間がいるんだ」と驚いた。

世界中誰が聴いても心地よい、そんな音の世界。1000年後に残るのはこんな音楽なのかな、なんて思ったり…

当時は、「音楽好きの間で話題の曲」程度の認知だったが、両者がトップランナーとして先導する現在においては、あまりにも贅沢なコラボレーションだ。

36. 夏夜のマジック / indigo la End

夏といえばシティポップ。

そんな感覚は80年代だけのものかと思われていたが、2016年という時代に「夏うた」の新たなアンセムが登場した。

結成以来、ボーカル・川谷絵音のアイデアと、バンドのハイセンスな演奏で数多くの魅惑的な音楽を作り続けていた職人バンド・indigo la End。

そんな彼らの代表曲となったのが「夏夜のマジック」。

淡く幻想的な夏の夜を、情緒豊かなバンドサウンドに閉じ込めた世界観は、まさに魔法そのもの。

「夏の終わり」という日本人誰もがセンチメンタルな気持ちになる時間を、川谷絵音の実直な言葉で書き綴った歌詞も愛おしい。

特にCメロからギターソロへと向かうこの瞬間の艶やかさといったら。

2021年には「シティポップの女王」こと土岐麻子がカバーし、サマー・シティポップの新定番となりつつある。

35. 新世界交響楽 / さよならポニーテール

2000年代以降、すっかり耳にすることが無くなった「渋谷系」というフレーズ。

そんな中でも、Cymbalsがいて、HNCがいて…渋谷系の系譜を継ぐ音楽は絶えず存在し続けている。

特に2000年代以降は、アイドルミュージックやアニメソングにおいて「渋谷」の空気が顕著に感じられる。

雑誌でも票を集めたNegiccoやフィロソフィーのダンスをはじめ、sora tob sakana、RYUTistなど数多くの渋谷系アイドルが登場。
いわゆる「楽曲派」のアイドルオタクを虜にした。

その中で、独自の世界を構築していったのが音楽グループ「さよならポニーテール」。
クリエイターとボーカルのグループ。メンバー編成は謎だらけ。

顔出しなし、ライブなし… SNSが普及した現在においてはそう珍しいことではないかもしれないが、彼らは2010年からそのスタイルを貫き続けている。

そんな「さよポ二」の代表曲がアニメ『キルラキル』のEDテーマ「新世界交響楽」。

洗練されたサウンドメイクと、5人のボーカルが織りなす美メロディーの応酬。
そしてピチカートファイヴを彷彿とさせる多幸感溢れる賑やかなアレンジ。

2010年代の渋谷系を象徴する音楽のひとつ。

34. LOSER / 米津玄師

私がはじめて「米津玄師」を知ったのは、確かLOSERだったと思う。

なんとなく音楽好きの(というか新しいもの好きの)友人から名前を聴いたことはあったが…
「これが、米津玄師か!」と。

緊張感のあるスタイリッシュなイントロを聴いた途端、今まで聴いていた音楽とは全く違う新しさを痛感した。とんでもない音楽だ、と。

軽快なビート乗せたラフなメロディーと、独特な言語感覚。
世界をあざけ笑うような皮肉めいた冷たい言葉と声は、ロックの反骨精神かと思いきや、実際は自虐というのが現代的。

「ハチ」の楽曲もそうだが彼の自由で軽快なワードセンスは本当に清々しい。
気楽に韻を踏んだかと思えば、どっしりとヘビーな言葉を噛みしめたり…

はじめてこの曲を聴いたとき、「Automaticを初めて聴いた当時の人々はきっとこんな感覚だったんだろうな…」なんて思ったものだ。

もちろん「ハチ」としてのキャリアがあってのものだろうが、「米津玄師」としての伝説のはじまりを感じさせる一曲だ。

33. ロックンロールは鳴り止まないっ / 神聖かまってちゃん

流れる様な美しいピアノから始まる、ロックンロールの名作…というか問題作、いい意味で。

初めて聴いたときの衝撃といったら… これは前述のLOSERとは全く違う衝撃で。

もう、開いた口が塞がらない。「こんな音楽…アリ?」

一度聴いたら忘れられない、曲曲(くせきょく、と読む。)で、平成サブカルの「時代の産物」。

当時はSNS黎明期で、まだまだアングラだったこともあり、
ネットというのは、自由な表現の場としての意味合いが強かった。

そんな中で登場した鬼才・の子の叫びは、あまりにもストレートで、あまりにもエネルギーに満ちていた。

楽曲としての芸術性ももちろん素晴らしい。なんかもう、ユートピアとディストピアが一緒になった感じ…

あの時代だからこそ生まれ、話題を集め、今なお語り継がれる伝説になった本曲。

今思うと、やっぱり当時のネット社会ってかなり独特(毒々)なものだったんだなぁ…

32. Snow halation / μ’s

2010年代といえば忘れてはいけないのが、アニメ『ラブライブ!』の存在。

今となっては定番ジャンルとなった「アイドルもの」だが、ラブライブ!…μ’sの登場はあまりにも衝撃的だった。

声優が実際にライブをやり、それがアニメの世界とリンクする…という次元を超えたパフォーマンスは新時代を切り開いた。

J-POPの魅力を煮詰めたような楽曲群も、目を見張るものばかり。

中でも彼女達を象徴する一曲となったのが、「Snow halation」。

冬のラブソングという王道を、新時代のアイドルが進む姿はあまりにもまぶしい。

イントロ、そして歌い出しの複雑なコード進行が生み出す、ドラマチックな幕開け。
Bメロで徐々に高まる高揚感、そしてサビでの盛り上がり。

90年代から続くJ-POPの美味しいところをすべて盛り込んだ、それでいて飽きの来ない繊細でフレッシュな一曲。

アニソン界の名作詞家・畑亜貴の繊細な歌詞が何とも素晴らしい。
恋する幸せな気持ちでも、失恋の悲しさでもなく、「恋する切なさ」を「Snow halation」と歌ったのだから…

ライブでの光り輝くオレンジ色の灯も伝説の象徴。

31. 水流のロック / 日食なつこ

ミクスチャー文化の台頭によって、複雑化が進んでいた2010年代の音楽シーン。

そんな時代に逆行するかのように、シンプルな編成で、普遍的な音楽の魅力を伝えた名曲も多数生まれた。

崎山蒼志の「五月雨」や、青葉市子の「いきのこり●ぼくら」…今思うと当時の藤井風の弾き語り動画もその一環と言えるかもしれない…

そして、忘れてはいけないのが、ピアノトリオ「水流のロック」だ。

ピアノトリオと聴くとジャズを思い浮かべてしまうが、この曲はタイトルの通りロック。

ピアノのクールな弾き語りとリズム隊の緻密なフレーズの数々が、スタイリッシュでありながらワイルドな魅力を放っている。

ジャズやクラシックとも違ったロックなピアノのサウンドと、ソウルフルなボーカルがとにかくカッコいい。

一度聴いただけでも十分良さは伝わるが、何度聴いてもワクワクできるのがこの曲の凄いところ。

雑誌ではランク外だったんだよなぁ…

30. らしさ / SUPER BEAVER

『東京卍リベンジャーズ』の主題歌を担当したり、令和の若者に絶大な人気を誇るロックバンド・SUPER BEAVER。

そんな彼らが2014年にリリースしたのが、「らしさ」。
コレもまた、思えばアニメの主題歌だったんだよなぁ… 『ばらかもん』、好きです。

王道なギターロックサウンドに乗せた無骨なメッセージがなんとも愛おしい。

思春期に誰もが一度は経験するであろう「自分らしさとは」という問い。

このモラトリアム的な葛藤を、等身大の言葉で綴った応援歌だ。

なんというか、こう…純粋な応援歌って結構少なくなってきている気がする。

そんな中で、SUPER BEAVERは常に背中を押してくれるし、引っ張ってくれる。

めくりめく展開の中で、温かい言葉を強く投げかけてくれる。
そう、ロックンロールは、優しいものなんだ。

29. きらきら武士 feat. Deyonná / レキシ

2000年代、SUPER BUTTER SOGや100sのメンバーとして、日本のロックシーンを盛り上げた名キーボーディスト・池田貴史。

そんな彼のソロプロジェクトは、「日本史」と音楽を掛け合わせたなんともコミカルなスタイルだ。

「日本史」という、音楽をやるには少し窮屈なテーマにも関わらず、バラエティに富んだ楽曲をいくつも作り出す彼は、希代の「歴史・プロデューサー」だ。

そんな彼の代表曲とも言えるのが、「きらきら武士」。

タイトルから既に「きらきらぼし」の洒落であることはあからさまだが、歌詞中に出てくる洒落の数々も中々クセになる。

しかしそれらも洗練されたポップミュージックに乗せるとシャレて聴こえてくるのだから不思議なものだ。

「Deyonná」こと椎名林檎の艶やかな歌声も魅力的。

この曲と「狩りから稲作へ」が収録された、2ndアルバム『レキツ』は、本当に名盤。

28. Summer Soul / cero

90年代フィッシュマンズやキリンジの登場以降、ヒップホップ界隈を中心に徐々に熱を帯びつつあった「Chill Out」ブーム。

そして、2010年代には「チル」という言葉そのものが若者の間で浸透に、音楽界にもチルアウト・ブームが巻き起こった。

中でも邦楽において中心となったのがceroの存在。
数多くの音楽フェスに登場し、ゆったりとした空気で会場を包み込む彼らの音楽はまさに「チル」。

そんなceroの代表作といえば3rdアルバム『Obscure Ride』。
洗練されたサウンドメイクと、滑らかな日本語詞。最初から最後まで隙がない、屈指の名作だ。

このアルバムの中でひと際輝いているのが、「Summer Soul」。

フルートソロから始まる、優美なソウルミュージックだ。

ラップ調のメロディーは、どこかあどけなく、飾らない歌詞も相まって、洗練された音楽をグッと親しみやすいものに変えてくれる。

雑誌では堂々の16位。アルバム企画でも高評価だったしね。

27. SUMILE SMILE / 内田彩

林原めぐみ、坂本真綾を筆頭にアーティスト活動に精を入れる声優は数多く存在する。

μ’sの「南ことり」役で一世を風靡し、声優界のトップアイドルの一人となった内田彩。
グループの解散後ソロアーティストとしてコンスタントに活動を続ける彼女。

2016年には武道館でのソロライブを成功させ、その3か月後にリリースされたのが初のシングル曲となった「SUMILE SMILE」。

作曲は、デビュー曲から彼女を支え続ける持田裕輔、そして作詞は2010年代のアニソン界のカリスマ只野菜摘。

両者の作り出す、華やかでフレッシュな世界。
みずみずしいサウンドと、流れる様な躍動感のあるメロディーライン…

そしてそれを高らかに歌い上げる内田彩の、確かな歌唱力。
「ことりちゃん」の可愛らしい歌唱とは一味違う、芯のある美しい歌声。声優ってスゴイ…

迫力のあるオケに負けないパワーと、情緒豊かなボーカルはまさに圧巻
ライブでも全くブレがないんだよなぁ…

26. 忘れられないの / サカナクション

シティポップ・リバイバルを受けて、サカナクションが作り上げた名曲「忘れられないの」。

Suchmosやceroのような洗練された2010年代のニュースタイルとは異なり、彼らはあくまでも当時の趣きを独自に再構築したようなアプローチが面白い。

MVもオメガトライブのパロディだし…

イントロのチャイムからして、バブリーな香りを感じる。なんなんだろう、あの「懐かしい」感じ。

そもそもファンクやソウルを取り入れた楽曲が多いサカナクション。
王道シティポップの中にも、細かな試みに彼ららしさを存分に感じられるのが素晴らしい。

そして、滲み出るグルーヴ感。それを生み出しているのが名手・草刈愛美の躍動的なベース。
中でも間奏のベースソロは、唯一無二の魅力を放っています。

歌謡曲としての色を際立たせた、サカナクション屈指の名ポップミュージックだ。

25位~

雑誌の企画では、各人が25曲選出するルールとなっていたため、
ここから先は「もし自分が選者なら…」という意味合いが込められたものとなっている。

1アーティスト:1曲という条件を付けて、自分なりに「これは名曲!」という25曲を集めてみた。

25. 眠り姫 / SEKAI NO OWARI

2010年代のJ-POPシーンにおいて忘れてはいけないのが、「セカオワ」の存在。

国民的アニメ映画の主題歌となった「RPG」をはじめ数多くのヒット曲を持つセカオワだが、個人的に一番印象深いのが5thシングル「眠り姫」。

近年だと星野源「アイデア」や、ヒゲダン「アポトーシス」のように、1つ楽曲の中でアレンジが大きく異なる曲というのは時々見られるスタイルだ。
「話題性」や「インパクト」が一層求められるボカロ界隈でも多く見られる。

この「眠り姫」もそのひとつ。
しっとりとしたピアノ主体のAメロから、壮大でファンタジックなサビ。2番ではノリの良いダンスビートに変化する…という、バンド形態にこだわらない自由なアレンジとプロデュースが楽しげだ。

王道感のあるダンスミュージックでありながら、アレンジや歌詞の随所に「セカオワ」の幻想的な世界が広がっている。

童話のようなドラマチックなラブソングは、Fukaseのボーカルも相まってどこか切ない香りも漂わせている。

24. 私以外私じゃないの / ゲスの極み乙女。

2010年代以降のJ-POPに多大な影響を与えるロックバンド・ゲスの極み乙女。(現・ゲスの極み乙女)。

ギターを主軸としたバンドサウンドに、ジャズやクラシックの要素を織り込んだミクスチャー感はまさに2010年代の象徴的アプローチ。

注目どころが、この2段重ねのイントロ。
「イントロスキップ」という文化が生まれた現代のエンタメシーンに、逆行するかのようなスタイルにロック精神を感じる。

技巧派のバンドメンバーが奏でる繊細でキレのあるアンサンブルに乗せた、かぐわしいシャレオツなメロディーライン。

そして、川谷絵音の現代的な感覚と、古風な文学センスを持ち合わせた歌詞世界。

「私以外私じゃないの」という深みのあるタイトルに対し「当たり前だけどね」と自分で言ってしまう飄々としたあっけらかんな態度がまた、現代的。

本曲が収録された2ndアルバム『両成敗』はどれも魅力的だがその中でも頭一つ抜けたオーラを放っている。
まさに、代表曲であり大名曲。

23. やさしくなりたい / 斉藤和義

「ずっと好きだった」で再ブレイクを果たした斉藤和義が翌年2011年にリリースした名曲。

テーマソングに起用されたドラマ『家政婦のミタ』の流行も相まって、
若い世代にも広く愛される、彼の新しい代表曲となった。

印象的なイントロのフレーズから、力強く鳴り響くギターのストローク。
デビュー以降貫き続ける彼のロックンロールは、2010年代も変わらず顕在だ。

「強くなりたい」「やさしくなりたい」という願いと想いを乗せた力強い歌詞は、現代においても強いメッセージが感じ取られる。

そして、やはり注目すべきは、メロディーライン。

MVはビートルズのパロディーだが、決して音楽としては60年代のブリティッシュロックのオマージュではなく、極めて日本の歌謡曲的なメロディーだ。

言葉ひとつひとつが粒立つような、ストレートなメロディーがより一層歌詞に深みを与えている…と思う。

22. N.E.O. / CHAI

「多様性」が広くうたわれる現代社会における、ある種象徴的なロックバンド・CHAI。

フェミニズムを感じる彼女らの「NEOかわいい」世界観は、鮮やかなピンク色とともに多くの人の目に色濃く焼き付いた。

個性爆発なプロデュースが、国内外問わず高い評価を得たわけだが、このバンドの魅力は勿論それだけではない。

むしろ、技巧派の彼女たちが作り出す、繊細なアンサンブルやアレンジ、サウンドメイクにこそCHAIの「NEOかわいい」が発揮されている。

16分で鋭く刻まれたハイハット、ダイナミックな轟音のベースライン、そして90年代のオルタナティブロックを思わせる重厚なギターサウンド…

風貌や歌詞は、ポップそのものだが、楽曲は極めてハードなロックミュージック。
このギャップも相まって、彼女たちにしか表現できないスペシャルな音楽となっている。

キャリア後期は、打ち込みを多用した洋楽ポップス的なアプローチが目立つため、
この野性的なプロデュースはこの時期ならではのものとなっている。

解散した今聴くと更なる特別感を感じる。

21. いい時間 / EVISBEATS

チルアウトブームの黎明期に発表されたEVIABEATSの2ndアルバム『ひとつになるとき』。

ラッパー・田我流とのコラボ曲「ゆれる」をはじめ数多くの名曲が収録される、彼の代表作。

この中で個人的に最も気に入っているのが「いい時間」。

ゆったりとしたビートに乗せた、素朴なラップは、これぞ「チル」。

歌詞を手掛けたのは「イルリメ」名義で数多くの名作を世に送り出す平成の隠れた名手・鴨田潤。

彼の歌詞は、どこか浮世離れしていながら身近で素朴な、独特な世界観。
単純な言葉を並べているのに、聴いたことが無いフレーズが数多く現れる。

かつてフィッシュマンズやゆらゆら帝国が作りだした「空虚」に満ちた音像や視点を、
よりポップに、それでいてディープに構築したような趣がある。

ピアノの特徴的なフレーズに乗せた無機質なボーカルがなんとも心地よい一曲。

20. 明るい未来 / never young beach

今回の記事で頻繁に登場する「シティポップ・リバイバル」というフレーズ。

個人的には2010年代の音楽シーンにおいて非常に重要なムーブメントの一つと考えている。

私の音楽的知見が深まっただけかもしれないが、近年は歌謡曲全盛期の80,90年代に比べ「はっぴいえんど」や「SUGAR BABE」のような70年代フォーク・ロックを神聖視するような動きが広く見られる気がする…

先に登場したカネコアヤノやYogee New Wavesらと並び、新時代のフォークミュージック界をリードするのが「ネバヤン」の存在。

そして代表曲「明るい未来」。

CMに使われ老若男女の耳に響いた、多幸感溢れるイントロは、フレッシュでありながらどこか懐かしさも感じさせてくれる。

軽快なリズムに乗せたしっとりと温かい低音のボーカル。
なんとも心地よく、表現力に富んだ歌声だ。

この曲のメッセージやサウンド、メロディーには普遍的な強い魅力を感じる。
決して「懐かしさ」で勝負した曲ではなく、ニュースタンダードとしてのロックをみせている。

19. 迷子犬と雨のビート / ASIAN KUNG-FU GENERATIN

「遥か彼方」や「リライト」といったバトル漫画のタイアップで知名度を上げていった「アジカン」。

そんなロックシーンの中心にいたアジカンが2010年に手掛けたのが、
アニメ『四畳半神話大系』のオープニングテーマ・「迷子犬と雨のビート」。

初期の疾走感あるロックとは一味も二味も違う、ポップで華やかな世界観。

高圧的なドラムに乗せた豪勢なホーンセクション。
アジカンの新境地そのものだ。

それでいて、こうも素晴らしい楽曲となっているのだから
やはりゴッチは、ロックンローラーでありながら、最高のポップミュージシャンだよな…

本作も収録されているアルバム『マジックディスク』は、全体的にポップで賑やかなアレンジが施された意欲作だ。

雑誌では、名小路氏がこの曲を選出。自分で選んでおいてなんだが、正直驚いた。
アジカンは、個々人では数曲名が挙がっていたが全体のランキングでは、1曲も入っていなかった。
2000年代でリライトが入るなら、2010年代はもっと票が入っても良かったと思う…

18. 何なんw / 藤井風

早くも令和のスタンダードとして、最先端を堂々と歩み始めた希代のミュージシャン・藤井風。

飄々とした佇まいで、音楽シーンにさっそうと登場し、緻密に構築された美しい音楽を繰り出したと思えば、紅白歌合戦ではスリッパでピアノを演奏という自由っぷり…

彼が持つ「ラフ」な魅力は、ハイセンスな音楽に馴染みやすさとアクセントを与えている。

スタイリッシュで重厚なポップミュージックに、ちょっぴりお茶目な日本語詞を合わせたシュールな空気感。
「何なんw」というタイトルも小気味いい。

サウンドだけ聞くと、最先端の洋ポップスなのに、歌が合わさると一気に日本歌謡になるのが、不思議。

そしてミステリアスで麗しいボーカルも、魅力的。

Vaundyといい、betcover!といい、みんな若いのに何でこんなにも色気があるんだ…

あと、岡山弁がいいよね。

これからの活躍にも期待がかかる、令和のスタァの出世作だ。

17. 流動体について / 小沢健二

実は、初めて聴いたオザケンの曲はこの「流動体について」だったりする。

99年生まれの私にとって、あの頃のオザケンはCDの中にしか存在しない。

この曲がリリースされた当時、「フリッパーズ・ギター」は良く聴いていたので、
「あのフリッパーズギターの人か!この眼鏡のおじさんは」という第一印象。

そして、初めて聴いたときから、すっかり虜になってしまったのを覚えてる。

ノリの良いビートに乗せた、色鮮やかな楽器の数々。そして飾らないボーカル。

なんといっても歌詞が魅力的だった。
正直なところあんまり意味は解っていないのだが、一つ一つの言葉がじんわりと脳裏にこびりついて離れない。

文学的でありながら、「羽田」「カルピス」のような馴染み深い固有名詞が出て来たり…

彼の音楽は人を引き付ける何かがあるんだよなぁ…なんかコピーライティング的な。
優れたデザインに出会ったようなワクワクと驚きに満ちている。

16. 長く短い祭り / 椎名林檎と浮雲

ポリリズムでのオートチューンのボーカルを初めて聴いたときに感じた近未来感も

ボーカロイドが広く流行した2010年代では、広く受け入れられるようになった。
…時代の変化は早いものだね

1stアルバム「無罪モラトリアム」で見せた、椎名林檎の等身大な魂の叫びを込めた、野性的なボーカルは、当時のロックシーンでひと際輝く存在だったが、

2015年にリリースされた「長く短い祭り」で見せた、スタイリッシュで無機質なボーカリゼーションもまた多くの人の耳を引き付けた。

椎名林檎は、楽曲によって大きく姿を変える… 演技派のボーカリストだ。
それでいてどんな姿でありながらも「椎名林檎」であり続ける圧倒的な個性も持ち合わせているというのだから本当にスキがない。

椎名林檎×浮雲という、東京事変から続くコンビネーションが生み出すメロディーの応酬も美しい。
古風な言い回しも、この2人にかかれば最先端のキラーフレーズだ。

希代のギタリスト・浮雲からギターを取り上げ、ステージに立たせることが出来る人間は星野源と彼女しかいないという話もある。

15. 愛にできることはまだあるかい / RADWIMPS

『君の名は。』の「前前前世」でみせたドラマチックで色鮮やかなロックミュージックから一変。

ミニマルなアレンジで『天気の子』を優しく包み込んだ、テーマソング「愛にできることはまだあるかい」。

新海誠が作り出す、現代のSFラブロマンスはもはや新定番となりつつある。

壮大な愛の物語にふさわしい、RADWIMPS屈指のバラードのテーマは「愛」。

ティーンエイジャーが抱えるモラトリアム的葛藤と、みずみずしい愛をかけ合わせた、野田洋次郎ならではの詩。

これを最大限に引き出す、繰り返されるシンプルなメロディーライン。

ここまでも少ない要素で、ここまでも壮大な音楽を、現代の音楽シーンでここまでも鮮明に表現できるとは…

時代や世界の理を超越した、芯のラブソングだ。

14. 君はロックを聴かない / あいみょん

時代が変わるごとに度々言われる「ロックは死んだ」という言葉。

そのアンチテーゼを感じさせるタイトルだが、その実態は爽やかでストレートなポップ・ロック。

スピッツやエレカシなど90年代の「ロック歌謡」を踏襲したようなアプローチは、
あいみょんの十八番であり、J-ロックのスタンダードだ。

伸びやかなギターソロから始まる、シンプルなバンドサウンドに乗せた、王道ど真ん中を行く歌謡的なメロディーライン。

AメロらしいAメロに、BメロらしいBメロ、そしてサビらしいサビ… 

低くしっとりとした出だしだが、ラストのサビでは開放的な高音が鳴り響く。
起伏に富んだメロディーを包み込む、彼女の包容力のあるボーカルが美しい。

清々しいほど真っ直ぐな音楽。
在り来たりなようでいて、2010年代という時代にはあまりにも光り輝くものに感じられた。

13. 白日 / King Gnu

リリース当時、多くの人が物まねをした「白日」の出だし。

なんというかサビよりも印象的なフレーズだ。

こういう、印象的な出だしがサビ以上にその曲を体現している音楽というのは時々登場する。
例えば、尾崎豊の「I LOVE YOU」とかね。

イントロの無い音楽というのは、2010年代以降トレンド…というか主流になってきて、
いかに出だしでインパクトをもたらすか…というのがひとつのポイントとなっている。

この文化の中で生まれた傑作こそ…「白日」であろう。

イントロについて語るだけでこの分量…だが、そこから続く展開も素晴らしい。

ラップ調のキレのあるメロディーが続き、サビは非常にキャッチー
…だが、井口理のハイトーンが、聴いたことも無いミラクルメロディーを生み出している。

何度聴いても発見がある、アイディアとテクニックに満ちた楽曲だ。

12. 恋愛サーキュレーション / 千石撫子(CV.花澤香菜)

「女子中学生にラップをさせる」という、斬新な発想。

それをカタチにしたのが、アニソン界のスーパースター・神前暁の秀逸な音楽センス。

そして、それを歌い上げる声優界のスーパースター・花澤香菜だ。

ストーリーに合わせて、2,3話ごとにオープニングソングと映像が変わるという、あまりにも特別感のあるアプローチ。
アニメ『化物語』は、従来のアニメシーンを踏襲しつつも、あらゆる面で斬新な、唯一無二のコンテンツである。

その象徴とも言える「恋愛サーキュレーション」は、
『化物語』…そして、アニメ界すら飛び越え、メインストリームとしての話題と、広い人気を集めた。

神前暁が作り出すキャッチーなメロディーと、奥深いアレンジ。
そして、Meg Rockが紡ぐ、千石撫子の心情を鮮明に、それでいて知的に表した歌詞。

可愛らしいポップサウンドに乗せた、花澤香菜のあまーいウィスパーボイスの破壊力。

続く「もうそう♥えくすぷれす」と、是非併せて聴いていただきたい。

11. 1984 / andymori

2000年代のJ-ロックにおいて、忘れてはいけないのがandymoriの存在。

シングルを一枚も出していないという独特なプロデュースもあり、2000年代企画では名前の挙がらなかった名バンド。

今回は「シングル曲」という制約が撤廃されついに、この曲とともにandymoriの名前がランクインする結果となった。

現代のロックシーンにおいて、andymori…とりわけ2ndアルバム『ファンファーレと熱狂』をアンセムとする若手バンドは少なくない。

パンクであり、フォークである…という、日本のロックシーンには欠かせない2つの要素を見事に踏襲し、自らの言葉とアイデアを持って独自のロックを作り上げた名アルバムだ。

その1曲目に収録されているのが、伸びやかで牧歌的な魅力を放つ一曲、「1984」。

素朴なバンドサウンドに乗せた、少年然とした小山田荘平の等身大の歌が、得も言われぬ美しさを生み出している。

1000年後も色褪せることは無いであろう、ビートルズを思わせるロマンと特別感に満ちた、最高峰のフォーク・ロックだ。

10位~1位

10. 琥珀色の街、上海蟹の朝 / くるり

2000年代のランキングで見事に3曲がランクインしたカリスマバンド・くるり。

そんな2000年代ロックを象徴する存在が、2016年にリリースした快作「琥珀色の街、上海蟹の朝」。

突き抜ける様なギターフレーズから始まる、ヒップホップミュージックは、
当時のチルアウトブームやシティポップリバイバルの全てを包み込む、くるりというバンドの懐の広さを如実に表していた。

今となっては、くるりの代表曲の1つとなっているが、くるり・岸田繁という変幻自在の音楽バカ(いい意味)がついに全面的にブラックミュージックを押し出した曲を出した、と衝撃を集めた。

そもそも、そういったアプローチは意図的にやってこなかったというくるり。

ここに来て繰り出された王道シティポップは、王道の普遍的な良さはもちろんありありつつも、
歌詞の世界観や、細やかなアレンジメントにロックミュージシャン・岸田のセンスが溢れている。

センスというか「捻くれ」…?
スタイリッシュなグッドミュージックに、「上海蟹」って…

それにしても岸田さんのボーカルって、無個性なように見えて、信じられないほど「くるり」の個性だよね。

9. STAY TUNE / Suchmos

シティポップリバイバルのなかで、リバイバルではなく新時代のシティポップとして頭角を現したのが、名手・Suchmosだ。

洗練された都会的なアレンジの一方、都会を冷めた視線で眺める皮肉めいた歌詞にキレがある。

シュッとしているようでどこか野性的な演奏も見どころ(聴きどころ?)だ。

高音をサラリと歌い上げる伸びやかなYONCEのボーカルは、飄々としていながらどこか鋭さを感じられる。

そしてそれは、全てのに言えることでメンバー…
小気味いいリズムを刻みながらも躍動的なドラム、ギター、そして、ベース。

HSUのベースは、本当に、何度聴いても心地よく、それでいて新鮮だった。

雑誌では堂々の1位。上位にはランクインするだろうと思っていたが、まさか1位とは…

8. ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C / ヒャダイン

「サブカル」という言葉を聞かなくなったな…と思う今日この頃。

あらゆる面で多様化が進む現代のカルチャーに、もはやメインもサブも存在しない。

それでも音楽において、現代の「サブカル・ミュージック」を上げるとしたら、やはりヒャダインの存在を思い浮かべるかもしれない。

小西康陽をはじめ、つんくや、神前暁、沖井礼二など…渋谷系の側面を持ち合わせた「クールジャパン」的なサブカルサウンドは、ヒャダインの登場によって一つの到達点を迎えた。

「ももクロ」をはじめ、音楽プロデューサーとしてのイメージの強いヒャダインだが、いちミュージシャンとして見たときの彼の存在感もまたすさまじい。

タイトルからして、はっちゃけ全開の、ハイパーキラーチューン。

あまりにもフリーダムだが、それでいてキャッチーな歌詞とメロディー。

すべてがぶっ飛んでいて、すべてが「ポップミュージック」という器に綺麗に収まっている。

楽曲の構成がとにかく新しい。Aメロ→Bメロ→サビ→Bメロ→Aメロ→サビ…と逆転するメロディー。
イントロのメロディーに歌詞を付けた、アウトロのアイデアも面白い。

同じくアニメ『日常』のテーマに起用された「じょーじょーゆーじょ―」と「Zzz…」も彼のセンスが光る名作だ。

7. 女々しくて / ゴールデンボンバー

2000年代以降、めっきり使われなくなった「歌謡曲」というワード。

本当に、80,90年代の「懐うた」を紹介するときくらいしか使われなくなった。

しかし「女々しくて」は、もはや「歌謡曲」としか表現することが出来ないほどの、ストレートな歌謡曲である。

ミクスチャーだなんだとうたわれる2000年代以降の音楽シーンだが、
元来、日本の歌謡曲というのは、そのミクスチャー感の際たるものだと思う。

島国・日本で独自に発展した音楽=つまるところの「J-POP」にもはやジャンルというラベリングはほとんど意味をなさない。

みんな歌える、みんな好きな曲… それこそが、歌謡曲の重要なポイントだ。

そしてそれを、見事にやってのけたのがゴールデンボンバー…というか鬼龍院翔だ。

スピッツへの絶大なリスペクトを持つ彼が作るロック歌謡はどれも一級品。
そして、彼が生み出す不器用でヘタレな男子像は槇原敬之のような、歌謡曲の主人公像そのものだ。

メロディー、ワード全てがキャッチー。
色物バンド(…バンド??)が生み出した、色褪せることの無い、国民的歌謡曲だ。

6. Orphans / cero

キラキラとしたチャイム、優しいギターサウンド…そして口笛とフルート。

この優美なイントロを初めて聴いたとき、これは名曲だ、と確信した。

そしてそこに乗せた、あまりにも繊細で美しいボーカリゼーション…

すべてが洗練されたスキのない音楽なようでいて、気だるげなコーラスやブラスのサウンドが楽曲に、ダシの効いた味をもたらしてくれる。

Suchmosなんかは都会の緊張感を感じさせるけど、
ceroの音楽は、都会的でありながら、大自然の開放感と伸びやかな風を感じさせる。

野外ステージの彼らの音楽は… あまりにも心地よ過ぎる(←本日二度目)

ふたりのティーンエイジャーが生み出す、純粋な恋とも一味違う、ダークでありながら温かい希望に満ちたロマンスを展開するような、歌詞の世界観も魅力的だ。

1番と2番で視点が切り替わるのもドラマチックで良いよね。小洒落たカンジ。

シティポップリバイバルなようでいて全く新しく、ラブソングなようで一筋縄ではいかない。
馴染みやすさと、新鮮さが滑らかに入り混じる、2010年代のマスターピースだ。

5. つけまつける / きゃりーぱみゅぱみゅ

2000年代にPerfume「ポリリズム」で、J-POPに新時代の風を巻き起こしたプロデューサー・中田ヤスタカ。

近未来を思わせるサウンドは、後に「KAWAII」として、世界中のダンスミュージックに取り入れられた。

そんな「KAWAII」の伝道師が、さらなる「KAWAII」も求めプロデュースしたのが・きゃりーぱみゅぱみゅ。

そのアイコニックなキャラクターは当時の若者のファッションに大きな影響を与え「原宿系」として広く知られるように。新時代の「ギャル」の到来を感じさせた。

彼女のターニングポイントとなったのが、1stシングル「つけまつける」。

「つけま=つけまつげ」というギャル全開のテーマで繰り広げられる、ドリーミーでファンタジックな音楽は、
Perfumeの洗練された印象とはまた違う、等身大の魅力を放っていた。

「付けるタイプの魔法」という、なんとも腑抜けていながらも端的に言い表した歌詞が、あまりにもスタイリッシュに感じられた。

サウンドが注目されがちな中田ヤスタカだが、彼の歌詞は聴けば聴くほど面白い発想に満ちている。

4. Pretender / Official髭男dism

インディーズシーンで絶大な支持を得ていた「ヒゲダン」が、
2018年にドラマ『コンフィデンスマンJP』の主題歌「ノーダウト」でデビュー。

新時代を牽引するミュージシャンとして頭角を現した、その翌年
2019年にリリースされたのが、彼らの代名詞とも言える名バラード「Pretender」。

billboardにて34週にわたって1位を獲得するなど、もはや伝説とも呼べるメガヒットを記録した、今さら言うまでもない名曲だが… うん、今聴いてもやっぱり間違いなくいい曲だ!

ヒゲダンのそれ以前の曲と比べると、なんというか大衆的なアレンジやサウンドメイクに思われる。

歌の魅力を最大限に引き出すような、バッキング、オケとしてのアレンジメント。

そこに乗せたメロディーラインは、あまりにも綺麗で、あまりにも魅力的だ。

日本語のフレーズをなぞるようなあまりにも自然なリズム感と、メロディーの起伏、イントネーション。
ミックスナッツなんかもそうだが、ヒゲダンのメロディーは歌詞に対して本当に従順だ。

日本人が本能的に口ずさみたくなるようなメロディーと歌詞が常に存在している。
これぞ歌謡曲の神髄。

その中に感じるグルーヴはにはこれまでヒゲダンが培ったポップスのセンスが伺える。

時代を超えるクラシカルな「歌謡曲」だが、2019年という時代にしか生み出され得なかった一曲だろう。

3. 恋 / 星野源

2010年代のポップスを牽引する大スター・星野源。

そんな彼が2016年にリリースした代表曲・「恋」。

彼自身が主演を務めたドラマ『逃げるが恥だが役に立つ』の主題歌。

ドラマの大ヒットとともに、大ヒットを記録した楽曲。
エンディングで披露されていた「恋ダンス」も大流行… まさに「逃げ恥」旋風。

いわゆる「ペンタトニック」を基本とした、王道感のあるメロディーづくり。

テーマもタイトルも、ドストレートに「恋」。

そんな純真すぎるアプローチでも、彼の手にかかれば、誰も効いたことが無い、それでいて誰もが心惹かれる魔法のような音楽へと姿を変える。

彼の作る音楽はいつもスマートで、優等生で…それでいてヤンチャで不良じみている。

「アイデア」のときにも少し書いたが、奇抜なことをやりながら、ここまでリスナーに寄り添った音楽づくりができるのは彼の信念とセンスあってのものだろう。

あと、彼の歌声って良いよね。なんか普通なんだけど、普通にカッコよくて、普通にオシャレ。
クセがないのに、味がある… いいとこどりな感じ。

2. Lemon / 米津玄師

「ハチ」時代を踏襲しつつも、よりポップな音楽性に磨きをかけた米津玄師の音楽。

アルバム『diorama』から『Bremen』までは、ダークで毒っ毛の多い楽曲も多く、サブカル的な人気を博していた。なんというか、好きな人は好きな音楽って感じ。

しかし、「LOSER」「orion」といった楽曲のヒットを機に、より大衆性を帯びたアプローチが顕著にみられるようになった。
そんな中でリリースされた『BOOTLEG』は、米津玄師の独創的な世界観と、幅広く愛されるポップさを両立し、J-POPのニュースタンダードとして、大きな功績を残した。

サブカルの枠を越えついにメインストリームの更に中心として君臨した彼が、翌2018年にリリースしたのが、屈指の名バラード「Lemon」である。

イントロの無い楽曲というのは、現代の音楽シーンのトレンド的アプローチ。
「白日」の時にも書いたが、この「イントロスキップ」の文化は、むしろより一層出だしのインパクトを重要視するようになったとも言えよう。

しっとりとした歌い出し…この美しくダークなメロディーに乗せた、センチメンタルなフレーズが非常に印象的だ。

最初から最後まで美しい流れる様なメロディーは、繊細な日本語詞を鮮明に浮き立たせている。

それでいて随所にちりばめられたアクセントの効いたアレンジメントが、楽曲に唯一無二の独創性と味わい深さをもたらしている。

基本的には滑らかな歌謡曲なのだが、このアレンジが、楽曲の中にいい意味で「突っかかり」のようなものを感じさせてくれる。この突っかかりこそが、何度も聴きたくなってしまう中毒性を与えているのだろう。

普遍的な美しさと、圧倒的な個性を持ち合わせた、記憶にも記録にも残る名曲だ。

1. 新宝島 / サカナクション

上位層は本当に誰もが認める名曲ばかりで、どれを1位にしようかと思ったとき、やっぱり一番インパクトのある、楽しいやつにしようと思い、この曲を1位に選んだ。

サカナクションが作り上げた最高の「キラーチューン」。

イントロのフレーズが、Aメロの歌詞が、サビのメロディーが、間奏のギターソロが、山口一郎の歌声が…そしてMVも!

すべてが印象的で、すべてが衝撃的。

サカナクション…に限った話ではないが、芸術性の高い、緻密で繊細なこだわりを持った音楽というのは、個性的である一方で、人を選ぶ側面も持ち合わせている。

簡単に言うと、大衆的ではないということだ。

サカナクションの音楽というのは、良くも悪くもそういった楽曲が多い。
何度も効いているうちに魅力に気付く、ということも少なくない。

そんな中、ひと際ポップで、ひと際華があるのがこの「新宝島」。

先ほどのLemonをはじめ多くの”名曲”に言えることだが、「大衆性」と「独創性」は相反するようでいて、同時に存在することが出来る。

単純な歌謡的な良さ、ノリの良さが目立つ一方、サカナクションならではのアレンジも色濃く見られる。
ダンサブルなシンセサイザーのリフや、基本に忠実でありながら個性が光るベースライン…
独特なアクセントを備えたクセのあるボーカル…

普遍的な魅力の中に、音楽的な深みが見て取れる。
誰でもノれる懐の広さと、譲らないこだわりが、この曲には存在しているのだ。

初めて聴いたときの衝撃は言うまでもないが、何度聴いてもあらたな発見があるのがこの「新宝島」のロマンだろう。

総評

今回は前回までの投票企画と違い、「シングル曲」という制約の撤廃と、YouTubeでの300万回再生という新しい基準が設けられた。

配信限定のリリースや、動画投稿を主軸に活動するミュージシャンも多く、
これまでの基準では語り切れないほど音楽界はフリーダムなものになってきた。

この変化により、より個々人の好みを反映した、自由度の高い選考となった。

これにより、票の分散が見られた一方で、面白い傾向も見られた。

それは、上位楽曲の得票率である。

サブスクが浸透した2010年代の音楽鑑賞のひとつの特徴。
「気軽に色々な音楽を聴けるようになって、かえって皆が同じものを聴くようになった」というもの。

一つの楽曲が何週にもわたってチャート1位を取り続ける。こういったブレイク状態が長く続く傾向は現代ならではのものだろう。

この傾向のおかげで、2010年代…特に後半は印象的な「メガヒット曲」がいくつも誕生した。

具体的には「マリーゴールド」や「Pretender」「Lemon」といった楽曲たちだ。

今回はこれらのメガヒット曲がしっかりと上位にランクインしていた印象だ。

MUSIC MAGAZINE的な「すぐれた曲」が世間的にもヒットしているという現在のシーン。
いわゆる「グッドミュージック」の流行からも感じ取ることが出来る。

従来の歴史的な価値や後世への影響力を基準にした「遺産」的な選出とは違った、等身大で「トレンド感」の強いランキング結果となった。

ゆえに、10年後に同じ企画をやったら全く違った結果になるのだろう…とも。

自身のランキングはというと、まぁ、雑誌の結果と結構似通っているかもしれない。
「自分しか選ばないだろう」という個性も出つつ、結局上位にはヒット曲が並ぶ、という。

わりと、多くの人がこんな感じのランキングを作るんじゃないかな…

今回も長々と考え悩み、長々と記事を書いてきたわけだが、
楽しんでいただけたのであれば光栄だ。

ここまで読んで下さった方にも、途中で見飽きてしまった方も、
すべての人々のこれからの音楽ライフがより楽しいものになりますように。

今回の企画はコチラ

2000年代企画はコッチ

過去のランキング記事はコチラから

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