スマートフォンの普及に伴い、漫画は「雑誌」や「単行本」を購入して読む時代から、デジタル媒体で楽しむ時代へと変わりつつあります。
…といわれてからも、もう何年も経ちますね。
今となっては、漫画は画面を通じて見るもの!というのがスタンダードになっています。
(もちろん紙媒体には紙媒体の良いところもあります)
電子書籍として購入する以外にも、アプリやSNS内でお金をかけずに漫画を読むなんてことも!
中でも手軽に楽しめるのは「Twitter」でしょうか。
Twitterには、アマチュアからプロまで毎日たくさんの漫画が投稿されています。
その中には、書籍化どころか、映像作品化されたものも!
個人発信の作品が、読者=閲覧者を通じて話題を集める…という、ロマン溢れる文化です。
そんなTwitter漫画界で、近ごろ話題沸騰なのが『ちいかわ』です。
今回は『ちいかわ』を例に挙げ、Twitter漫画がもたらした「漫画の新しい楽しみ方」について書いていこうと思います。
『ちいかわ』とは?
『ちいかわ』(なんか小さくてかわいいやつ)は、ナガノ氏による漫画作品です。
2020年にTwitterに第1話が投稿されて以降、2022年現在もほぼ毎日更新されていますね。
形態としては1ページ1話のスタイルで、基本的には1話完結のショート漫画でありながら作品全体を通じて連続するストーリー展開が行われています。
内容は、なんか小さくてかわいい主人公・ちいかわと、その仲間たちの可愛らしくも波乱万丈な日常を描くファンタジー作品。
可愛らしいタッチのキャラクターや世界観と、魅力的なストーリー展開が支持を集め、雑誌『日経トレンディ』の「2022年ヒット予測」ランキングでは8位に選出されました。
日経トレンディの予測は見事的中し、2022年4月からはフジテレビの朝の情報番組『めざましテレビ』内でアニメも放映されています!!
アニメ化を機にさらにファンを増やし、様々な企業とのコラボやイベント、グッズ展開…とまさに「ちいかわ旋風」ですね!
なぜ『ちいかわ』はここまで流行…いわゆる、バズったのでしょうか?
私が考えたちいかわの魅力を3つ紹介いたします。
魅力① Twitterとの親和性
ひとつに、『ちいかわ』が流行しているのはTwitterに投稿されているから、ということが上げられると思います。
何が言いたいかというと、『ちいかわ』はTwitterとの親和性が非常に高い作品なのです。
Twitterには「ツイッター芸」や「バズツイート」と言われる独自のエンタメ観が存在しています。
その核ともいえるのが「共感性」です。
「あるある!」「わかる~!」と思えるツイートには多くの「いいね」や「リツイート」が集まる傾向が見て取れます。
あるある系のbotや、大喜利系の人気アカウントが多く存在しているのがわかりやすい事例だと思います。
これは、『ちいかわ』も例外ではありません。
ちいかわは漫画作品ではありつつも、あるあるを発信する”ネタツイ”アカウントと捉えることも可能です。
マンガ内では、主人公・ちいかわやその友達のハチワレ達の、日常における素朴な喜怒哀楽が描かれています。
ちょっとした喜び、ちょっとした悩み、ちょっとした勇気…
この「ちょっとした」ほどよいスケール感が、より多くの共感を集めていると言えるでしょう。
また、Twitterの持つ「拡散力」の高さも『ちいかわ』人気を拡大させた一つの要因だと思います。
ちいかわ内で描かれる「あるある」は、「共感」を仰ぎ、「拡散」され、さらに読者、フォロワーを増やす…Twitterにおけるバズりの構図を見事に体現した漫画ではないでしょうか?
更新頻度の高さも、この連鎖を助長していると思います。
いつ見始めても最新作がすぐに公開されるというのは、やはり参画しやすさがありますよね。
基本的には1話完結であるため、気軽に見始めやすいというのもあるのではないでしょうか?
そして、Twitterには「引用リツイート」という機能が存在します。漫画を引用しながら感想を書いたり、考察をしたり…この引用のしやすさというのも一つポイントになってきそうですね。
魅力② スラング力(りょく)の高さ
二つ目の魅力は、作中に登場する「セリフ」の流行です。
漫画やアニメのセリフが流行るには、主に3つのパターンがあると考えます。
それが「①めい言型」「②口ぐせ型」「③決めゼリフ型」です。
①めい言型は、印象的な場面で発せられた名言が、読者の心を打ち広まる…というものです。
迷言の場合もあります。
代表的なものは…『スラムダンク』の安西先生の格言「諦めたらそこで試合終了」とかでしょうか?
非常に励まされる名言です。あとは、「止まるんじゃねぇぞ」とか「逆だったかもしれねェ…」とかね…
心打たれる格言はもちろん、汎用性の高さやインパクトから流行ることも。
とにかく印象に残る1度限りのセリフはここに分類されます。
②口ぐせ型は、登場人物が良く使う言い回しや、語尾が流行する…というものです。
代表例は…『Dr.スランプ』のアラレちゃんです。彼女の口ぐせや語録は「アラレ語」と呼ばれ、数多くの流行語が生まれました。
語尾ということでいうと、『NARUTO』の「だってばよ」とかですかね?
最近だと、『けものフレンズ』の「すっごーい」「食べないでください~」なんかが耳に新しいですね(もう古いって?)。
登場人物が(無意識に)たびたび発するセリフはここに分類されます。
③決めゼリフ型は、登場人物が「ここぞ!」という場面で発するものです。
代表例は、『セーラームーン』の「月にかわっておしおきよ!」ですね。バトルもので必殺技を撃つときや決めポーズとともに発せられるのが定番です。
最近だと、『鬼滅の刃』の「全集中・◯◯の呼吸」みたいなのが流行りましたね。
これが一番わかりやすい分類だと思います。
さて、『ちいかわ』にもいくつかの流行語が存在しています。
一つ目は、メインキャラクターのハチワレが発した「心がふたつある~」というセリフ。
これは相反する二つの感情に心が揺らいでいる状況を端的に、ハチワレらしく表した言葉です。
汎用性の高さから、Twitterなどで流行りつつあります。
作中では1度しか登場していないにもかかわらず、共感性の高さとキャッチーで柔らかい言い回しから人気を博しました。これは先ほどの分類でいうと「①めい言型」に当てはまります。
二つ目は、「ちいかわ語録」です。
3人(匹?)のメインキャラクターのうちハチワレ以外のふたり、ちいかわとウサギは基本的に言葉(にんげんのことば)を話すことがほぼありません。
「ワッ」「ヤー」といった感嘆や、「ヤハ」「ルルルルル」といった奇声にも似たセリフで感情を表現しています。
これらの得も言われぬ表現は「ちいかわ語録」などと呼ばれ、Twitterを中心に真似をする人が続出。
中でも汎用性が高いのが、ちいかわの悲鳴「ヤダーッ」です。
複雑な言葉を発さないちいかわならではの純粋で真っ直ぐな拒絶が何とも潔い…
あとは、ハチワレが用いる通称「ハチワレ構文」です。
彼は他のふたりが喋らない代わりに、読者への状況解説としての役目を持ち合わせています。
代表的なのが「○○…ってコト!?」というセリフです。
ハチワレは流暢に喋ることができる分、他のキャラクターに比べ数多くの流行語を生んでいる印象がありますね。これらは、「②口ぐせ型」に当てはまります。
そして三つ目は、これまたハチワレの決めゼリフ「なんとかなれーッ!!」です。
ちいかわ達は、作中でたびたび訪れるピンチを、この「なんとかなれーッ!!」で潜り抜けてきました。
いわばハチワレの必殺技です。なんとかならなかったらどうするつもりだったんだろう…とか、考えてはいけません。なんとかなるんです。
これからも「なんとかなれーッ!!」が、彼らをピンチから救ってくれることでしょう。
これは「③決めゼリフ型」ですね。
このように、『ちいかわ』は言葉を話すキャラクターが少ないにもかかわらず(だからこそ?)数多くの流行語を生みだしています。
セリフが流行ることにより、自然と「拡散」されていくことにも繋がっていくのです。
魅力③ 可愛らしさとのギャップ
可愛らしく癒される雰囲気が人気の『ちいかわ』ですが、ちいかわの魅力はそれだけではありません。
その柔らかいタッチで描かれる不穏でダークなストーリー展開こそ、この作品の本質と言えるかもしれません。ちいかわはダークファンタジーです。
可愛い絵柄でダークファンタジーを描く、というギャップが人気を集めました。
この手法は、『魔法少女まどか☆マギカ』や『メイドインアビス』、『がっこうぐらし!』などを彷彿とさせますね。もはや定番にもなりつつあるスタイルです。
また、近年は『鬼滅の刃』をはじめダークファンタジーというジャンル全体が盛り上がりを見せています。なんでしょう…鬱アニメといいますか、すこし残酷でハードな作品が流行している印象です。ちいかわもこのムーブメントの一環としてとらえることも可能でしょう。
とはいえ『ちいかわ』には、「まどマギ」や「がっこうぐらし」といった”ギャップもの”にはない強みがあります。
これらの作品は、最初は可愛らしい雰囲気だったのがある場面を境界に一気にダークな世界に切り替わるという形式でした。そのため、以降はずっとダークな展開が続くんですよね。
一方のちいかわは、1話完結。
その中には、可愛らしい平和なエピソードと、殺伐とした雰囲気のエピソードが混在しています。
つまり、ちいかわには「読んでみないとどちらに転ぶのかわからない」というドキドキが常に存在しています。毎回毎回「今日はどうなるんだろう?」という気持ちで読むことができるのです。
あの「裏切り」を何度でも楽しむことができるんですよね。これは面白い!!
また、ちいかわは作品全体を通して、まだまだわからない部分が多く…いわゆる「伏線」をもとに「考察」するという楽しみ方が存在しています。
これは、まどマギなどの作品にも共通して言えることですね。
「今後の展開が読めない!」「続きが気になる!」というスリルや期待感も、一話完結というスタイルでありながらたくさんのフォロワー=継続的な読者を集めている理由と言えるでしょう。
Twitter漫画の特徴
以上のように、『ちいかわ』の流行はこれらの要因によるものであると私は考えます。
ここからは、ちいかわはじめTwitterで流行する漫画の特徴をまとめていきたいと思います。
特徴① 共感性
Twitterで漫画が流行るには、ストーリーの面白さやキャラクターの魅力、絵などの一般的な指標に加え、「共感できるか」ということがより一層重要視される傾向にあるようです。
共感が「拡散」を促し、流行を生み出すのです。
また、読者が共感を得られるよう個々のエピソードは小さなスケールで、ピンポイントに描かれることが多いです。
「◯◯が~な漫画」といった、状況やあるあるをそのままタイトルにした漫画も多くみられます。
特徴② わかりやすさ
Twitterでは、毎日数多の投稿がなされています。そのため一つ一つのツイートに対しての接触時間は非常に短いです。
そんなSNS上で展開される漫画には、「手軽に読める」「わかりやすい」「目に留まりやすい」といったキャッチーさや、シンプルさが求められます。
ひょっとすると、丁寧に描きこまれた複雑で壮大な物語よりも、シンプルな絵柄でセリフも少なくコマ数も少ない端的な漫画の方がTwitterでは受けやすいのかもしれません。
また、個性的な色づかいによって誘目性を高めることもひとつの方法です。
『ちいかわ』には圧倒的な「わかりやすさ」があります。なぜなら、一見絵を見ただけでは伝わりにくい部分を積極的に文字で補っているからです。
絵だけで状況を説明するのも上手い漫画のひとつの指標ではありますが、それが全てではないんですね~
特徴③ 話題性
Twitterで流行る漫画には「話題性」があります。
これは雑誌の連載でも何でも言えることではあるんですけどね…
ただ、Twitter漫画は…Twitterに掲載され、それがそのままTwitter上で話題になるという一貫性のあるムーブをします。
印象的なエピソードが描かれると、すぐにトレンド入りしたり…
掲載から拡散、流行までがストレートで早いんですよね。
また「リツイート」機能により、口コミよりももっと簡単に、手軽に拡散することができるのもポイントです。
返信=リプライ欄で、作品に対し直接感想や意見を述べることができるのも魅力のひとつといえるでしょう。とにかく、Twitter漫画には圧倒的な「扱いやすさ」が存在します。
「参加する」という楽しみ方
これらの魅力を通じて言えるのが、TwitterをはじめとしたSNSで流行る漫画には「参加する」という楽しみ方が存在しているということです。
これがどういうことかといいますと…
雑誌や単行本といった従来のスタイルでは、読者が「購入→読む」という楽しみ方が一般的でした。
というか、漫画はそうやって楽しむものなんですけど…
しかし、Twitter漫画には「購入」というコストが無い上に、読んだ後に「拡散する」「コメントする」「考察する」などの更なるアクションを気軽にとることができるのです。
もちろん、従来の漫画でも友人と感想を言い合ったり、考察ブログを書いたり、といったことはできましたが、SNS内で全てを行えるようになり、そういった行動をとる人が増えたというのは間違いないと思います。
言ってしまえば、「読む」ことと「参加する」ことをリアルタイムで行うことができるのです。
この感覚は、ニコニコ動画に近いものがあると思います。
視聴すると同時に他の人の感想や意見が流れてくる…みんなで参加する楽しみ方。
『ちいかわ』の流行によって、SNSで確立された「参加する」という新しい漫画の楽しみ方が、より大きなものになった気がします。
また、途中からでも気軽に「参加する」ことができるのも『ちいかわ』、Twitter漫画の良いところです!
まだちいかわを読んだことが無い方も…遅くありません!
今からでもこの「ちいかわブーム」に「参加」してみませんか…?
オマケ:従来の楽しみ方も
Twitterに投稿されている『ちいかわ』ですが、実は単行本化もしています!!
あらゆる伏線に対して、じっくり考察をしたい方。
何度も読み返して癒されたい方。
ツイートを遡って今から追いかけるのが面倒な方。
そんな方々には単行本がオススメです!
なんと、オマケとして書き下ろしエピソードも付いています!
既にTwitterで『ちいかわ』を読んでいるファンにも嬉しい特典ですね~
ちなみに筆者は「ハチワレ」がお気に入り
コチラの記事もオススメ
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