【解説】渋谷系とは?代表的なバンドと有名曲を紹介【音楽語り】

90年代の日本の音楽シーンでたびたび使われていた「渋谷系」というワード。

コアな音楽ファンから、カジュアルなリスナーまで、若者を中心に幅広い層を巻き込んだ一大ムーブメントとなりました。

しかし、2000年代以降「渋谷系」という言葉はパッタリと使われなくなり、現在では「渋谷系って何?」という方も少なくないと思います。

今回は「渋谷系」というジャンルについて、
当時のブームの中心的なバンドから、最近のアーティストまで
代表曲とともにじっくり解説していきます。

1.渋谷系って?

その前に、「そもそも渋谷系ってどんなの?」という話を。

主に、80年代後半から90年代にかけて使われた「渋谷系」という言葉。

2000年代以降で言うと「原宿系」のような感覚で、音楽のみならずファッションなどの文化を巻き込んだ、当時の若者カルチャ―の一派だと思ってください。

音楽的な話をすると、
大体以下の2つの要素を取り入れたような音楽が、広く「渋谷系」としてメディアで紹介されていました。

①80年代に欧米で注目を集めた「ネオアコ(←和製英語)」と呼ばれるジャンルに感化を受けたJ-POP

②従来のフォークや歌謡曲の要素と、ファンクやソウルといったブラックミュージックの要素を掛け合わせたような音楽性

感覚的な話をすると、「若者が聴いている都会的でオシャレな雰囲気のポップ・ミュージック」という感じらしいです。
7,80年代のニューウェイブ・シティポップブームや、2010年代のチルアウトブームに近しいものを感じますね。

しかし、当時は「渋谷系」という言葉が先走っていた印象もあり、
90年代に登場した新しいバンドは、わりとどれもこれも渋谷系と称されていたようです…

(スピッツやミスチルなんかも渋谷系として紹介されていたとか)

そんなわけで、「渋谷系」というジャンルは結構曖昧なもので、明確に「こういう音楽!」と断言するのは極めて難しいものでもあります。

実際に、ロックバンドやシンガーソングライター、ヒップホップグループまで、
世間一般で「渋谷系」と呼ばれているアーティストは様々です。

ブームが終わった2000年代以降に、あらためて「渋谷系」というジャンルの定義が固まってきた印象ですね。

2.ブームを支えた90年代の代表曲8選

ここからが本題です。

渋谷系の代表的なミュージシャンについて、代表曲とともに紹介していきます。

ただし! …何度も言うように渋谷系は曖昧な概念。

あくまでも主観的なものなので、
「それは渋谷系じゃなくない?」という曲があっても多めに見て下さい…

まずは、90年代のブームを牽引した名曲を10曲。

①恋とマシンガン / FLIPPER’S GUITAR

日本における「ネオアコ」の草分け的存在のフリッパーズ・ギター

デビュー以降、斬新な音楽センスと空気感で、渋谷系黎明期を牽引した存在です。

中でも、1990年にリリースした「恋とマシンガン」は、親しみやすいメロディと独特な日本語詞で人気を集めました。

現在でもTVやラジオなど様々なメディアで起用され、広い世代に愛される名曲です。

キャリア前期は、海外のネオアコの名曲を日本風にアレンジしたような、再構築的なアプローチが顕著でしたが、
後期はサンプリング(既存曲の一部を引用する手法)など、最先端のトレンドを取り入れ、
より前衛的でアーティスティックな作風を生み出しました。

解散後は、両名ともソロとして活動。
現在まで、渋谷系のレジェンドとしてヒット曲を生み出す中で、常に進化を続けています。

②スウィート・ソウル・レビュー / PIZZICATO FIVE

フリッパーズ・ギターとともに渋谷系ムーブメント黎明期を支えたのがピチカート・ファイヴ

ジャズやファンクといったブラックミュージックを取り入れたポップでゴキゲンな歌謡曲で人気を集め、音楽好きの若者を中心にブレイク。

CMに起用された「スウィート・ソウル・レビュー」をはじめ、数多くのヒット曲を生み出しました。

メインボーカル・野宮真貴さんの可愛くも芯の通ったパワフルな歌声と、小西康陽氏、高浪慶太郎氏をはじめとした作曲家陣が作る音世界は、まさに渋谷系のスタンダード!

中でも小西康陽氏は、解散以降「慎吾ママのおはロック」をはじめ各方面でその才能を発揮しています。J-POP史に残る名プロデューサーですね。

2000年代以降はももクロのプロデューサーとして知られるヒャダインこと前山田健一さんをはじめ、アニソン、アイドルソングをはじめとしたサブカルミュージックに多大な影響を与えています。

③接吻 / ORIGINAL LOVE

フリッパーズ、ピチカートと並び「渋谷系御三家」としてムーブメントを牽引したのが、オリジナル・ラヴ

デビュー当時は5人組でしたが、現在はオリジナルメンバーでボーカルの田島貴男さんのソロプロジェクトとなっています。

歌謡曲にジャズやソウルといった要素を取り入れた骨太な音楽性は、後のR&Bシーンやネオ・ソウルに大きな影響を与えました。

中でも代表曲である5thシングル「接吻」は、ドラマの主題歌に起用され、90年代を代表するJ-POPミュージックの一つとなっています。

音楽雑誌『MUSIC MAGAZINE』の「90年代J-ポップ ベストソングス100」では数多の名曲を抑え、堂々の1位となりました。
後のアルバム企画でも多数ランクインするなど、高い評価を得ていますよ。

現在もソロとして、単独ライブやフェスへの出場を続けている他、アイドルグループへの楽曲提供等、渋谷系のレジェンドとして音楽シーンを盛り上げています。

④今夜はブギーバック / 小沢健二&スチャダラパー

フリッパーズ・ギターのメインメンバーのひとり、「オザケン」こと小沢健二さん。

グループ解散後はソロでの活動をはじめ、90年代の渋谷系を引き続き先導する存在となりました。

甘いルックスや立ち振る舞いも相まって「渋谷系の王子様」と称されることも。

「強い気持ち 強い愛」では、歌謡曲の巨匠・筒美京平氏とコラボするなど、音楽シーンの第一線として歩み続けた彼。

中でも94年にリリースした『今夜はブギーバック』は、渋谷系ムーブメントを代表する一曲として、今なお語られ続ける存在となっています。

90年代に渋谷系と並行して流行した「ヒップホップ」のカリスマ・スチャダラパーを迎え、独特の言語感覚と、脱力したムードで、当時のクラブに旋風を巻き起こしたこの一曲。

2010年代のチルアウトブームや現在のヒップホップシーンに今なお大きな影響を与えています。

一時、拠点をニューヨークに移し、日本での活動を休止していましたが、2017年に『流動体について』で活動を再開。2024年には再びスチャダラパーと共演するなど、活動を続けています。

⑤STAR FRUITS SURF RIDER / Cornelius

オザケンとともにフリッパーズ・ギターの中心人物として、渋谷系を牽引した小山田圭吾さん。

解散後は「Cornelius」の名で、ソロプロジェクトを始動。

フリッパーズ・ギター後期の作風をより洗練させた、斬新で実験的なエレクトロミュージックに挑戦。

97年には代表作『Fantasma』をリリース。
バイノーラルマイクを使用したレコーディングなど、当時の最先端の技術と、たぐいまれなセンスによって、新感覚の音像を生み出しました。

収録曲「STAR FRUITS SURF RIDER」は、彩り豊かなサウンドに乗せた、無機質で脱力感のある独特なボーカリゼーションが印象的です。

2000年代以降は、ようやく彼のセンスに技術が追い着いたといったように、『Point』や『Sensuous』など、更なる最先端ミュージックを作り続けています。

真似したくても真似できない、独自のセンスと技術を持って音楽シーンを牽引し続ける姿は、まさに天才と呼ぶにふさわしい存在でしょう。

⑥ハミングがきこえる / カヒミ・カリィ

フリッパーズギター解散後の1992年に、小山田圭吾氏のプロデュースでデビューしたカヒミ・カリィ

渋谷系の新たな歌姫として注目を集めました。

96年には、国民的アニメ『ちびまる子ちゃん』の主題歌として、「ハミングがきこえる」をリリース。
その名が広く知れ渡るきっかけとなりました。

ボサノヴァやスウィングの要素を取り入れた軽快なリズムに乗せた、原作者・さくらももこの手掛けるメルヘンチックな歌詞がクセになる一曲です。

少女的なあどけなさと、洗練された大人っぽさを持ち合わせた彼女の世界観は、唯一無二の魅力を放っています。

彼女の特徴とも言える、可愛らしくもどこか無機質な「ウィスパーボイス」は、ピチカートの野宮真貴さんとはまた違った渋谷系らしい歌声としてのイメージを確立しました。

2000年代以降も「さよならポニーテール」や「Hazel Nuts Chocolate(HNC)」など数多くの渋谷系ミュージシャンに影響を与えています。

⑦ラ・ブーム〜だってMY BOOM IS ME〜 / カジヒデキ

90年代の渋谷系といえば、忘れてはいけないのがカジヒデキの存在。

フリッパーズ・ギターに影響を受け結成されたバンド・ブリッジのメンバーとして、活動を開始。

小山田圭吾主宰のレーベル「トラットリア」から複数の作品をリリースし、フリッパーズ解散後の渋谷系の中心的存在に。

97年にソロとしてリリースした1stアルバム『MINI SKIRT』はオリコンチャート4位を獲得。

「ネオアコ」の新たなカリスマとして、日本のフォークミュージックに新たな風をもたらしました。

中でも収録曲「ラ・ブーム〜だってMY BOOM IS ME〜」は、ブリット・ポップの要素を取り入れた、爽やかな作風で、彼を代表する一曲となりました。

2008年には、映画『デトロイト・メタル・シティ』の主人公のモデルとして、楽曲も提供。

2024年には19枚目のアルバムをリリースするなど今なおコンスタントな活動を続けています。

⑧スマイル / ホフディラン

90年代の渋谷系ムーブメントのフォーク・サイドを牽引したのが音楽ユニット・ホフディラン

フォークやブルースに根差したワタナベイビーと、ブリット・ポップやロックに精通した小宮山雄飛の両者が手掛ける、
個性的でありながら、親しみやすい音楽は、洗練された都会のイメージの強い渋谷系に新たな一面をもたらしました。

そんな彼らの代表曲といえば、96年にリリースされ、アニメ「こち亀」の主題歌に起用されたデビュー曲「スマイル」。

ワタナベイビーの個性的な歌声と、ゆったりとしながらもポップなサウンドやメロディーで人気を集めました。
2020年には女優の森七菜さんがカバーし再ブレイクを果たし、若い世代にも浸透するきっかけとなりました。

また、97年にはテレビアニメ『コジコジ』のOP「コジコジ銀座」をリリース。
カヒミ・カリィやカジヒデキ同様、さくらももこ原作アニメ主題歌を担当したアーティストでもあります。

EDは電気グルーヴが担当するなど、さくらももこ作品は90年代サブカルミュージックにおいて、実は重要な存在だったり…
(さくら先生は相当な音楽通ですからね)

従来の渋谷系のイメージとは異なるアプローチが見られる彼らですが、活動拠点を渋谷に置いていた、
まさに文字通り渋谷系のミュージシャンです。

3.2000年代~のネオ渋谷系5選

2000年代以降、ブームは終息に向かい、次第に影を潜めていった「渋谷系」。

しかし、その文化自体が途絶えたわけではなく、90年代の渋谷系ミュージックに影響を受けた「ネオ渋谷系」ともいうべきアーティストが数多く登場しました。

また、90年代にはバンドを中心に展開されていた渋谷系でしたが、
2000年代以降はアイドルグループや、アニソンなどあらゆる方面でその影響が見られました。

お次は2000年代以降の渋谷系を彩る各ジャンルの代表曲を時系列順に紹介いたします。

①Highway Star,Speed Star / Cymbals

まずは、90年代後半に結成され2000年代初頭に活躍した伝説のロックバンド・Cymbals(シンバルズ)をご紹介。

渋谷系の2大巨頭、フリッパーズ・ギターとピチカート・ファイヴの両者の要素を取り入れつつ、
パンクロックのやんちゃさを基軸にした音楽性。

知的でありながらやんちゃな世界観を武器に、渋谷系の新時代を築いた名バンドです。

ボーカル・土岐麻子さんは解散後「シティポップの女王」として、ソロ活動をはじめ、
沖井礼二さん(Ba.)と矢野博康さん(Dr.)は、アニソンやアイドルソング、声優への楽曲提供など、プロデューサーとして音楽シーンを支えています。

活動期間も短く、あまりメジャーなバンドではありませんが、後のJ-POP、なかでもサブカルミュージックの文脈において多大な影響を遺した存在です。

②ポリリズム / Perfume

渋谷系…中でもピチカート・ファイヴの小西康陽さんのポップな世界観を踏襲し、
そこにダンスミュージックの要素を取り入れ、近未来的なポップスを構築した、
名プロデューサー・中田ヤスタカ氏。

中でも彼がプロデュースを務めるアイドルユニット・Perfumeは、2008年の「ポリリズム」のメガヒット以降今なおJ-POPの第一線として活躍し続けています。

2010年代は、きゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースを行い、「原宿系」という新概念を生み出しました。

彼の作り出す「KAWAII」や「未来観」はJ-POPシーンのみならず、世界の新トレンドを生み出し、日本を代表する音楽として、広く浸透しています。

Snail’s Houseさんや、Yunomiさんといった「KAWAII FUTURE BASS」のジャンルはもちろん、
ボカロやゲームミュージック、以降のアイドルなど様々なカルチャ―に多大な影響を与える存在です。

『MUSIC MAGAZINE』の「2000年代J-ポップ ベストソングス100」では1位を獲得しました。
まさに日本の名曲!

③アイドルばかり聴かないで / Negicco

2000年代以降、アイドル・ミュージックに界隈を中心に使われるようになった「楽曲派アイドル」というワード。

楽曲のクオリティーの高さを売りに、音楽ファンを弾き込むようなアプローチを得意とするアイドルのことを指す言葉です。

そんな「楽曲派」の代表格とも言えるのが、Negiccoです。

2003年に結成された新潟のご当地アイドルですが、現在ではその枠を飛び出し、
日本を代表するアイドルグループのひとつとなりました。

メイン・プロデューサーのConnieさんをはじめ、オリジナル・ラヴの田島貴男さん、Cymbals・矢野博康さんなど渋谷系のミュージシャンが多数楽曲提供を行っています。

中でもピチカート・小西康陽氏が手掛けた「アイドルばかり聴かないで」はNegiccoの代表曲の1つとして、Negiccoファンのみならず、渋谷系リスナーに愛されている名曲です。

④恋愛サーキュレーション / 千石撫子(CV. 花澤香菜)

渋谷系の波はアイドルのみならず、アニソンまで!

ナムコの音楽家としてキャリアを歩み始めた名作曲家・神前暁氏。

大ヒットゲーム「ことばのパズル もじぴったん」では、中田ヤスタカ氏とともにテーマソングを担当しサブカルミュージック界の中心的存在に。

以降は、『涼宮ハルヒの憂鬱』の劇中歌「God knows…」や『らき☆すた』主題歌の「もってけ!セーラー服」をはじめ、アニメ史に残る名曲を数多く担当。

同時期2009年から始まったアニメ「物語シリーズ」においては主題歌から劇伴にいたるまで音楽の総合プロデューサーを務めます。

中でも『化物語』の「なでこスネイク」テーマソング「恋愛サーキュレーション」は、アニメの枠を越え広くヒットし、神前氏を代表する一曲となりました。

ネオアコやヒップホップといった渋谷的要素と、普遍的なポップ歌謡の要素を融合し、広く愛される音楽を生み出すそのセンスは、田中秀和氏や広川恵一氏をはじめ現代のアニソンシーンに多大な影響を与えています。

⑤思いがけず雨 / Nagakumo

2000年代以降、アニソンやアイドルといったサブカルを主体に盛り上がりを見せていた「渋谷系」。

しかし、2021年に渋谷系の新時代を感じさせるバンドが登場。

彼らの名が広まるひっかけとなったのが2022年リリースの「思いがけず雨」

「恋とマシンガン」を思い起こさせる、軽快なビートと爽やかなネオアコサウンド。

黎明期を感じさせるリバイバル的なバンドでありつつも、卓越した演奏と、男女ツインボーカルの織りなハーモニーは、圧倒的なオリジナリティと存在感を示しています。

2023年の『JUNE e.p.』では、オルタナティブロックの要素を押し出しより幅広い音楽性で、ロックな作風に。

2024年にはワンマンライブを成功させ、更にはNegiccoの楽曲を手掛けるなど早くも渋谷系ムーブメントの中心的存在へと進み始めています。

まとめ

今回は、渋谷系とは何?ということで、

90年代のブームを支えた代表的な楽曲と、
2000年代以降の渋谷系を牽引するミュージシャンを紹介していきました。

渋谷系は非常にあいまいな音楽ジャンル(そもそもジャンルなのか?)ではありますが、
今回紹介した楽曲を聴いていただければ、
「あぁ、こんな感じなんだな」というのをなんとなく感じ取っていただけるのではないかと思います。

今なお音楽シーンに根強い影響を与え続ける渋谷系。
今後どんな渋谷系アーティストが登場するのか楽しみですね。

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